特別公開:3枚のカードで読み解く物語──映画『インビクタス』の構造を解析してみる 山川健一

「今週は南アフリカのラグビーチームのワールドカップ優勝を祝して、映画『インビクタス』の構造解析をしたいと思います。

この映画はいわばノンフィクションなのでネタバレということにもならないし、テレビでも放映されたようでタイムリーでもあるので、映画をまだ観ていない人にもわかるように解説したいと思う」


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「私」物語化計画 2019年11月8日

特別公開:3枚のカードで読み解く物語──映画『インビクタス』の構造を解析してみる 山川健一

今週はヘンリー・ミラーの『北回帰線』に発語の方法を学ぶ──という講義をする予定でしたが、変更します。南アフリカのラグビーチームのワールドカップ優勝を祝して、映画『インビクタス』の構造解析をしたいと思います。

この映画はいわばノンフィクションなのでネタバレということにもならないし、テレビでも放映されたようでタイムリーでもあるので、映画をまだ観ていない人にもわかるように解説したいと思う。

 

話は変わるが、先日「神田SHOJIMARU」であったスクーリング&ライヴの後、みんなでビールを飲んでいたら、ロックファンの40代の男性が、『「私」物語化計画』の会員のSさんにこう言った。

「Sさんは『「私」物語化計画』に入ってるけど、小説を書きたいわけ?」

彼女の返答を僕は隣で聞いていた。

「小説なんて書かないよ。そもそも本なんてあまり読まないし。でも、毎週の講義を読んでるだけで、自分というものの構造がよくわかるようになると勧められて──ほんとによくわかるようになったよ。あなたも勉強嫌いだなんて言ってないで、ロックが好きなら入りなさいよ!」

今度彼女を、『「私」物語化計画』のプロモーションマンに任命しようかな──と、半ば本気で考えている。

世界は物語でできており、その構造を理解することで「私」という存在や、周囲の大切な人たちの心理的構造、文学や映画や芸術、愛するアーティストの秘密まで理解することができるようになる。
『「私」物語化計画』もほぼ1年が経ち、先日ようやくのことで「現代小説のための設計図」の講義までたどり着くことができた。

今回は参考までにその実践編、「この設計図はこう使うんだよ」ということで、この設計図、アーキテクチャ、物語論を使って、映画の構造解析を行いたいと思う。

 

復習だが、『「私」物語化計画』で共有した物語論(地図)「隠された父の発見/隠された秘密の開示」はこうなっている。

1. 欠落/欠如の存在
2. 旅立ち セパレーション
3. 通過儀礼 イニシエーション
4. 助言者の出現
5. 「隠された父の発見/秘密の開示」
6. 帰還 リターン

 

大切なファクターが6つあるわけだ。今回はこれを大胆に半分に減らす。

3枚のカードだけ覚えておけば、すべての物語を理解することができる。

 

【『「私」物語化計画』版3枚のカード】
1. ジェノバの夜(「私」というものを意識した夜)
2. 欠落
3. 隠された父の発見

 

僕が世界で最も尊敬するのはご存知の通りミック・ジャガーだが、天性のロックスターであるミックの3枚のカードは何か考えてみる。それがわかればこの重層的なスターの構造が明確になる。

僕はこんな風に考えている。

 

【ミック・ジャガー、3枚のカード】

1. ジェノバの夜
退屈な郊外での生活の中で、ブルースを発見した夜。

2. 欠落
10代の頃は女の子にからっきしモテず、レコード会社と契約する時には「あのおかしな顔のボーカリストを変えるんなら契約してやってもいい」と言われたこと。

3. 隠された父の発見
ミックの父親は体育の先生で、ブライアン・ジョーンズがドラッグで死んだ後トレーニングを始め、父を通じて自らの肉体的な健康性を発見したこと。

 

これがわかるだけで、一見意味不明に見えるミック・ジャガーの発言やパフォーマンスがくっきりと理解できるようになるだろう。あなたも好きなアーティストや作家や、映画、あるいは大切な恋人の3枚のカードとは何か考えてみると良い。

もちろん、そのミュージシャンや作家、あるいは恋人のことがただ好きなのだ──というだけでも貴重なことだ。好きなものがたくさんある人は、豊かな人なのだ。今の世界で好きなものを見つけるのは、実はとても難しいのではないかと僕は思っている。

しかし好きという感情を超えて、対象の構造をもっと深く理解することができれば、「好き」というエモーションはもっと深くなる。

 

それでは3枚のカードを使い、『インビクタス』の構造を解析していこう。

 

【映画『インビクタス』という物語】

映画の舞台は1990年代の南アフリカ共和国で、南アのラグビーチームが描かれている。

南アは人口約5,070万人で、黒人が約79%、白人が約9%。17世紀からオランダ、英国の植民地支配を受け、独立後も一握りの白人支配層が、多数を占める非白人を極度に差別するアパルトヘイト政策が維持されていた。
“invictus”というタイトルだが、これは「征服されない」「屈服しない」「敗れざる者」を意味する。

主人公はネルソン・マンデラである。実在の人物だ。マンデラが書いた自伝『自由への長い道』がこの映画の原作になっている。

自由への長い道(上) ネルソン・マンデラ自伝 NHK出版
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自伝『自由への長い道』が出版された時のインタビューで「映画化されるとしたら誰に演じてもらいたいか」と聞かれたマンデラは「モーガン・フリーマンだ」と答えた。それを聞いたフリーマンがヨハネスブルグにあるマンデラの自宅を訪問し、映画化権を買った。

フリーマンはこの作品の脚本をクリント・イーストウッドに送り監督を依頼し、イーストウッドはこの申し出を快諾した。

モーガン・フリーマンとクリント・イーストウッドが組むのは『許されざる者』(1992年)、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)に続き3本目ということになる。

ところでこの『許されざる者』を観て僕は驚き、感動したものだった。イーストウッドというとダーティーハリーのイメージしかなかったからだ。そんな人が多かったのではないだろうか。いい映画俳優であり、素晴らしい映画監督だ。歳をとるのは本当に素晴らしいことだと思わせてくれる、数少ない人物である。

 

ネルソン・マンデラは反体制活動家として逮捕され、27年ものあいだ投獄されていた。

南アフリカ共和国のアパルトヘイトは有名で、ピーター・ガブリエルは南アで獄死したスティーヴ・ビコに捧げる「ビコ」をリリースした。1980年のことだ。

ブルース・スプリングスティーンのバンドのギターだったスティーヴ・ヴァン・ザントの呼びかけで、U2のボノやマイルス・デイヴィスが反アパルトヘイトの『サン・シティ』をリリースしたのが85年である。

映画のテーマにもなっているアパルトヘイトだが、おおざっぱに差別的な政策だというふうに理解している人が多いだろうと思う。しかし正確には「人種隔離政策」のことだ。黒人、白人、それ以外のカラードの人種の混血を避けるため、人種を隔離して、異人種間の結婚を認めなかった。白人以外には選挙権も与えられず、黒人達はゲットーのような貧民街に押し込まれていたのである。

アパルトヘイトは1948年に南アフリカ共和国で法律化され、国際社会から批判され経済制裁も課され貿易封鎖されたが、長期に渡って維持されたのである。

 

そんな中、1990年にネルソン・マンデラが釈放される。もちろん、これは世界的な事件だった。

これは映画で描かれているわけではないが、91年にデクラーク大統領がアパルトヘイト関連法を廃止し、全人種が例外なく選挙権を持つことが可能になった。

94年の初の全人種参加の総選挙でマンデラが同国初の黒人大統領に就任したのだった。

映画のストーリーはここから始まる…..,(特別公開はここまで、続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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