キャラクター・メーキングの方法 06 『ミントの朝、ステファニーの夜』(本間悠一朗)の構造分析(小説の作法) 山川健一

ナラトロジーで重要だとされている「隠された父の発見」とはこの作品では何に相当するだろうか。それは──

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「私」物語化計画 2023年7月14日

特別公開:キャラクター・メーキングの方法 06 『ミントの朝、ステファニーの夜』(本間悠一朗)の構造分析(小説の作法) 山川健一

【冒頭の「欠落」とは何か?】

『ミントの朝、ステファニーの夜』(本間悠一朗)は、何度読み返してもいい小説である。これを物語化計画ブックスの第一弾として刊行できたことは、とても光栄なことだと僕は思っている。

今週は、この小説の構造分析することで、小説を書くコツを伝授したい。ただし、ネタバレを含むことをご了承ください。

 

本間悠一朗『ミントの朝、ステファニーの夜』(物語化計画ブックス)

Kindle Unlimitedでもお読みいただけます

 

あらゆる物語の冒頭には「欠落」あるいは「禁止」が存在しなければならない。この作品の場合はどうだろうか?

プロローグを見てみよう。

 

プロローグ

フロントのカウルを外して剥き出しになったコードを繋ぐと、メーターに薄いランプが点った。

作業をしていたアキラはハンドルを握り、キックペダルを踏み下ろすと、一二五ccの白いスクーターは勢い良く唸りを上げた。その音に反応して、少し離れた所で見張りをしていたリュウは、くりくりと愛らしい目を更に輝かせてこちらに駆け寄ってくる。アキラがフロントのカウルを取り付けている間にシートに跨ったリュウは、待ちきれないとでもいうように勢い良くアクセルを回した。すると、センタースタンドを立てて僅かに宙に浮いていた後輪は激しく空回り、排気口からは一際高いエンジンの駆動音が鳴り響いた。

「おい、うっせえよ! ちょっと待てって」

アキラは、ヘッドライトを間近に浴びたしかめっ面をひょいと覗かせ、ぶつぶつ文句を言いながらカウルを装着し終えると、使用した工具をショルダーバックの中にしまった。

本間悠一朗『ミントの朝、ステファニーの夜』(物語化計画ブックス)

 

本文中に「少し離れた所で見張りをしていたリュウ」という表現があり、このスクーターに乗った日本のモッズのような少年たちが何かよからぬことに取り組んでいるらしいことが推察される。

 

「第一章 恐怖のゴキブリ男」の書き出しはこうだ。

 

香坂アキラはクズだ。世間ではそう言われている。

私もそう思う。

この男との付き合いは小学校二年生の頃からなので、かれこれ十年近くになる。そんな幼なじみの私が言うのだから間違いない。この世に根っからの善人、そして根っからの悪人が存在しないように、社会的規範を物差しに善行と悪行を選り分け、その割合に応じて人間の価値が決まるのであれば、この男は紛れもなくゴキブリ並みのクズといえる。

本間悠一朗『ミントの朝、ステファニーの夜』(物語化計画ブックス)

 

不良集団の中心には、ゴキブリ男と称されるアキラがいる。

この小説の「欠落」とは、少年たちが青春の鬱屈を抱えているということだ。ピカレスクロマンの枠組みをしっかり守っている。

そして社会には法律が定めた「禁止」事項が山ほどある。その「禁止」を、ゴキブリ男や主人公は、ミント&ステファニーと名付けられたスクーターで軽々と踏み破っていくだろう。その行いが、いくつかのイニシエーションになる。

中学に上がる直前、アキラは教室でゴキブリを食って平然としており、皆を引き連れて近所のおもちゃ屋でサバイバルゲーム用のゴーグルやエアガンを盗み、年齢が上がっていくとさらに悪になっていく。

アキラは、こんなふうに描写されている。

 

アキラという男は勉強は不得手、体力も人並み程度と、およそ学業において目を引くものは乏しかったが、絵や工作といった美術の方面には異様に冴えたところがあって、この時もその才能を遺憾なく発揮して短時間で手の甲への〝刻印〟を実に手際良くやってのけた。人によっては想像しただけでも怖気を奮うほど忌み嫌われているゴキブリを、わざわざ落ちにくい油性マジックを使用して、無理やり刻み込んでいく姿はまさしく〝恐怖のゴキブリ男〟そのもので、私たちは正義の使者に速やかに成敗されるべき悪の存在に違いなかった。当然ながら、この件は保護者・学校を巻き込む大問題へと発展した。

本間悠一朗『ミントの朝、ステファニーの夜』(物語化計画ブックス)

 

いつも言っているように、小説には最低3人の登場人物が必要である。小説は人間の関係と、その中で成長していく主人公を描くものである。それには最低、3人必要なのだ。もちろん様々なバリエーションがあるわけだが、原則的には3人分の機能が必要だということだ。

さらに小説を構想する場合、自分の作品の中で「行為者」とは誰か、「認識者」とは誰かを明確にしなければならない。しかもこの役割はタイムラインに沿って変化していく。「関係の絶対性」によって両者の関係は動いていき、これがストーリーになる。

 

『ミントの朝、ステファニーの夜』における3人の重要なキャラクターは──続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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