特別公開:世界文学のイノベーター達 01「人間の物語」を書いたウィリアム・シェイクスピア 山川健一

シェイクスピアの作品は古典である。その古典作品のどこにイノベーションがあったのか──

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「私」物語化計画 2021年1月29日

特別公開:世界文学のイノベーター達 01「人間の物語」を書いたウィリアム・シェイクスピア 山川健一

ドストエフスキーの「罪と罰」はお読みいただいただろうか。この稀有な長編小説を学ぶ前に、世界文学史がなぜドストエフスキーにたどり着いたのか解説したい。ドストエフスキーは突然変異的に生まれたのではなく、それは文学史の必然だったのである。

文学史上、感動的な小説は多いし、そこには読者個人の経験も反映されるわけで、文学の最も良質な部分は読者と作品のそうした幸福な関係にあるのだと思う。

ただしそれとは別に、イノベーションを成し遂げた表現者が数少ないが存在する。彼らの作品を見ることで、僕らは芸術の歴史の必然性を学ぶことができる。好むと好まざるとにかかわらず、イノベーターとしての芸術家には敬意を払わなければならない。

わかりやすい例をまず音楽の世界に見てみよう。

全盛期を過ぎたマイルス・デイヴィスのトランペットを聴いて、或る若いジャズメンが「下手くそじゃないか。あれなら俺の方がもっと上手に吹ける」と言ったことがあったのだそうだ。

先輩のミュージシャンが「お前が演奏する音楽の形式そのものを作り出したのがマイルスだ。お前には音楽の何たるかがマイルスの100分の1もわかっていない」と叱ったのだそうだ。

マイルスは前進を続けた。

クール・ジャズ、ハード・バップ、モード・ジャズ、エレクトリック・ジャズ、クロスオーバー、ヒップホップ・ジャズなど、様々な音楽を作り出した。

若い頃、チャーリー・パーカーが創出したビバップに限界を感じ、コードが導入される以前の古い教会旋法を積極的に採りいれたアルバム『カインド・オブ・ブルー』をリリースし、モード・ジャズの発端を開いたのがスタートである。

モード・ジャズの誕生である!

やがてブルースやロック、ヒップホップなども採り入れ、ジャズを超えた巨大な音楽を作り上げた。

ジェームス・ブラウン、スライ・ストーン、ジミ・ヘンドリックスの音楽を評価し、ジミを自宅に招き一緒にプレイした様子が評伝で描かれていて、感動的だ。レコーディングする計画まであったが、残念なことに、これは非公式なセッションだけで終わった。

文学の世界のドストエフスキーも、小説の作者であるのと同時にイノベーターだった。自意識を前提にし、神に挑戦する近代小説を完成させた。

その後の文学は現代小説を含めてすべてドストエフスキーの延長線上にある。

繰り返すが、ドストエフスキーの誕生は世界文学史の必然だったのだ──ということを知って欲しいと思いこの原稿を書いていく。

 

【イノベーターとしてのシェイクスピア】

文学の世界の最初のイノベーターはウィリアム・シェイクスピアだろう。

そもそもシェイクスピアは近代的な英語というものを作った。意外に思われるかもしれないが、方言が混在する時代、1人の作家が母国語を作るということがあり得たのである。

フランス語を作ったのは劇作家のモリエールだ。「やがて誰もフランス語を話すなんて言わなくなるだろう。モリエールを話すと言うようになる」と酔ったモリエールが酒場で叫んだという話もある。

ちなみにモリエールはシェイクスピアをライバル視し、いつか喜劇ではなくシェイクスピアのような悲劇を書いてやるんだと思いながら、喜劇にその才能を発揮したのだった。

ロシアは広大な国土を持ち、統一されたロシア語というものが存在しなかった。それで

「プーシキンの詩にある言葉をロシア語ということにしよう」と人々は決めたのだそうだ。

現代小説の世界的な標準を設定したのはカミュとカフカだ。神話と大恋愛とも程遠い、平凡な人間の非凡なストーリーを書いた。

ちなみに、日本語による近代小説の元型を作ったのは夏目漱石である。現代小説の元型を作ったのが大江健三郎である。もっと古く、日本語による物語の元型は紫式部の『源氏物語』にある。

シェイクスピアに戻る。

若い頃、観光名所になっているシェイクスピアの生まれた家に行ったことがある。ストラトフォード=アポン=エイヴォンに生家があり、売店でお土産に万年筆を何本も買い、東京で作家友達に配り「これで原稿を書いたら上手くなるよ」と言ったものだったが、みんな笑ったが中には───続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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