特別公開:いよいよ旅立ちだ! 1 山川健一

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『さて、今まで旅立ちの準備に時間を使ったが──つまり言語と物語の構造について学んできたわけだが――いよいよ本日、船を出す。大海原へ向かって、無限の可能性を秘めつつ!』

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「私」物語化計画 2019年2月1日

特別公開:いよいよ旅立ちだ! 1 山川健一

お待たせしました。

ようやく出発だ。

ところで皆さんにご心配をおかけしましたが、打撲した右肩も少しずつ良くなり、この原稿はiPhoneではなくMacintoshで書いています。

 

さて、今まで旅立ちの準備に時間を使ったが──つまり言語と物語の構造について学んできたわけだが――いよいよ本日、船を出す。大海原へ向かって、無限の可能性を秘めつつ!

アルゴー船(ギリシア神話に登場する巨大な船)に乗り組み、コルキスの黄金の羊の毛皮を求めて、船を出すのだ。乗組員は物語化計画のメンバー全員である。

船を出す──すなわち1行目を書くということだ。

 

禁止から欲望が生まれ、欲望は欠落を生み、その欠落を満たすにはどうしてもコルキスの黄金の羊の毛皮が必要なのだ。

ただ船に乗り込む時に必要な要因がある。それは、「外圧によって否応なく追い込まれ」船に乗り込むことになってしまったという現実を認めることだ。

つまり、あなたが書こうとしている主人公が旅立つ時には、「自分でいろいろ考えて出発する決意をした」とか、「親友や恋人のアドバイスを受け入れたから」とか、「家族と相談した結果」というのはダメだ。

あくまでも拒否できない外圧、つまり自分ではコントロールすることもできず抗うこともできない何かしらの力によって、「旅立ち」に追い込まれたという設定にしなければならないのだ。

 

それを冒頭10行で書く。10行というのは喩えだが、冒頭で大切なのは、とにかくウダウダ説明しないこと。

夏目漱石の有名な「草枕」の冒頭部分はこうだ。

 

<山路を登りながら、こう考えた。

智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。

住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。

人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。やはり向う三軒両隣りにちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。>(夏目漱石「草枕」)

 

何かしらの外圧によって「どこへ越しても住みにくいと悟った時」に追い込まれ、だからこそ詩が生れて、画が出来るのだと漱石は言っているのだ。

太宰治は書き出しの天才だと思うが、「鉄面皮」という短編がある。その一行目はこうだ。

 

<安心し給え、君の事を書くのではない。> (太宰治「鉄面皮」)

 

この冒頭の一行は何度読んでも笑ってしまうが(最初に読んだ時には爆笑した)、もちろんタイトルと一対になっているわけだ。

つまり……(特別公開はここまで、続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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