ダーウィンを理解すると小説が豊かになる 07 ミームとしての小説を書く 山川健一

──僕らは逃げながら小説を書く。
あるいは逃げるために小説を書くのである。
では、どんな小説を書けばいいのか?──

 

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2024年7月19日

特別公開:ダーウィンを理解すると小説が豊かになる 07 ミームとしての小説を書く 山川健一

【無記】

戦争というものは、人類のポピュレーションの調節に最も効果的に寄与してきた。そんな状況下で、小説や文学は何を目指せばいいのだろうか──という話の続きである。

結論を書くと、これは「無記」として臨むしかない。無記とは、原始仏教が思想を構築していく上でとった基本的な立場だ。無記とは、形而上学的な問題について判断を示さず沈黙を守る姿勢のことである。

神は存在するのか否か。

この地球は滅亡するのか否か。

問いに対して、是とも非とも答えを出さないことを無記と言う。あるいは事物の性質が善とも悪とも記すことができないことを言う。

火事が起きたら、なぜ火事が起きたのかとか、炎の本質は何かと考えたりするのではなく、とにかく早く逃げろと釈迦は教えた。

戦争というものは人口調節に有効なのだから「善」なのか否か? この問いには答えられないのだから「無記」の立場を守り逃げるしかないのである。

僕らは逃げながら小説を書く。

あるいは逃げるために小説を書くのである。

では、どんな小説を書けばいいのか?

──(中略)──

 イギリスの動物行動学者、リチャード・ドーキンスの利己的遺伝子についてもう一度考えてみる。

生物は利己的な遺伝子が自分のコピーを作るための生存機械に過ぎない、という考え方である。

大昔、二本の鎖が絡まり合うような遺伝子は、剥きだしのまま、裸のまま存在していた。彼らの目的はたったひとつ。自己の複製を作りつづけることである。裸のままでは傷つきやすいので、その周囲に自分を守る家……いやむしろ移動する乗り物のような防御壁を作る。

それが人間の肉体であり、鳥や魚や獣の肉体である。ぼくらがセックスしたくてしょうがないのも、乗り物としての僕らはどうせすぐに廃車になってしまうのだから、利己的な遺伝子様のために早めに新しい車──つまり子供を作らなければないからだ、ということになる。

こうした考え方は急速に一般化していった。

神というのは、もしかしたら「自己複製しつづけ、永遠に生き延びよ」と命令する遺伝子そのものなのかもしれない。地球外知的生物にとっての神も彼らの利己的な遺伝子なのだ。

DNAのリレーだけが大切で、古くなった乗り物としての自動車は廃車にされる運命にある、というのが彼の説だ。おいおい、俺も廃車にされるわけか、とショックを受けた人がどれだけいたことか。

ドーキンスによれば、自分を犠牲にして子供を救おうとする母親の愛も、実は「利己的な遺伝子」の成せる業にすぎないのだということになる。母性愛なんてものは存在しない、と。科学者という人種は、時に身も蓋もないことを言う。

 

【DNAとミーム】

リチャード・ドーキンスは、その後「ミーム」という概念を提唱した。実は先日早稲田のロック講座のメンバーでお酒を飲んだ時にもこの話をして、皆が興味を持ち前のめりになっていたのだが、時間切れになってしまい、「続きは物語化計画に入って読んでね」と宣伝しておいた。

ミーム(meme)とは、ドーキンスが1976年に提唱した概念で、英語のgene(遺伝子)と、ギリシャ語で「模倣」を意味するmimemeを合成した造語で、生物が遺伝によって子孫に情報を伝えるように、集団内の模倣行動で様々な情報が伝わるシステムを指す。

ミームは文化的遺伝子と翻訳されている──続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

 

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