初心者にもよくわかる文章教室 04 エロスの表現を身につけよう
──もしもあなたがエロスをメタファーにした表現方法を身につけることができれば、作品は一気に読者の深い場所に届くことになるだろう──
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2024年5月10日
特別公開:初心者にもよくわかる文章教室 04 エロスの表現を身につけよう 山川健一
【画家はなぜ裸婦像を描くのか?】
今週は、エロスについて語ろうと思う。と言っても、エッチな話ではない。エロスとは、生命の源泉であり、あらゆる芸術のコアにあるもので、品のない欲望やセックス自体とは無関係なものだ。無関係と言うと言い過ぎかもしれないが、少なくとも同じものではない。僕がそのことを思い知らされたのは、2011年の東日本大震災の際だった。
津波によって多くの人たちが犠牲になり、福島の原発事故は深刻な影響を僕らに与えた。その頃東北芸術工科大学で教員をやっていた僕は、ある時親しくなった洋画の先生と上りの新幹線に乗っていた。既に夜である。僕は小型のガイガーカウンターを持っていた。福島駅に着くと線量が増大することがよくわかった。
僕の手元を覗き込みながら、洋画の先生がこう言った。
「美術の世界では、基礎的なレッスンとして裸体画を描くでしょう。なぜだかわかりますか?」
少し考え、僕はこう答えた。
「人間の肉体が、造形を学ぶのに最も適しているからですか」
「もちろんそれもあります。しかし、それ以上に重要なのはエロスを学ぶためですよ。エロスとは生命そのものであり、絵画はそれを礼賛するために発展しました。だから、絵を描く者は裸体のデッサンをするのですよ」
それから彼は少しの間黙り、動き始めた新幹線の窓の向こうに視線をやりながらこう言った。
「原発事故でそのエロスは大きなダメージを受けました。僕はこれからしばらくは、絵が描けないのではないかと思っています」
太陽が降り注ぐ森や、激しく降った雨を集める川や、自然の中に息づく魚や鳥や獣や人間達がエロスを体現しており、それがないと画家は絵筆を握ることができないのだろう。
文学にとっても事情は同じだろう。
批評家の江藤淳に『近代以前』(文春学藝ライブラリー)という本がある。この本は、関ヶ原の戦い以後、日本文学史には半世紀にも及ぶ空白が出現しているのだ──という衝撃的な書き出だしで始まる。
日本を東西に分けた戦は、相手をなぎ払う刀で文学をもなぎ払ってしまったようだと江藤は書く。
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山川健一『物語を作る魔法のルール 「私」を物語化して小説を書く方法』