新しいスタートラインに立つ 1 半径5メートルの内側で進行する小説 山川健一
自分自身を救助することこそ、新しいスタートラインに立つことだ──
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「私」物語化計画 2022年4月8日
特別公開:新しいスタートラインに立つ 1 半径5メートルの内側で進行する小説 山川健一
【私は私自身を救助しよう】
4月である。
僕の仕事場の近くの公園の桜も、ふと気がついたらもう咲いていて、今は散りかけている。早いものだね。
今週、日本全国の学校で入学式があった。新しい学年になり、新しいクラス分けと新しい担任の先生が決まり、「やったぁ!」と喜ぶ子供たちやがっかりする子供たちの顔が思い浮かぶ。
『「私」物語化計画』も新学期を迎える。クラスは基礎コースと実践コースの2クラスしかなく、新しい担任は? えーと、どちらもまたヤマケンだね。はい、そこ、がっかりしないように!
大学ではこの後、健康診断とオリエンテーションの週間が始まる。
物語化計画でも、今月はオリエンテーションを行おうと思う。ウクライナ戦争とコロナで世界は大変なことになっていて、こんな時はそもそも1行目を書くことが──つまり発語することが大変だ。
だから方法論と言うよりも「書きたい気分」を作ることが大事なのだ。新学年のスタートを迎えるにあたって、どうしたら書きたい気分になれるかを一緒に考えてみよう。
最初に大事なのは、ストレスから自由になることだ。それが難しい? わかってます。僕もそうだ。とりあえず、コロナとプーチンを忘れる時間を作ろう。論理的に考えていくと、「ロシア軍は僕ら人類の全体を殺し、略奪し、強姦しているのだ。絶対に許さない。1人残らず見つけ出して裁いてやる」ということになり、しかし「自分もまた裁かれる側の人類の1人でもある」ことに気がついて愕然とし、すると泥酔したくなってしまう。
こうなると小説を書くどころではない。
コロナ危機を巡る短編小説を皆で書いて電子書籍を作ろうという企画があるのだが、ウクライナ戦争が始まりあまりにも惨たらしい動画や画像がSNSで配信され、「時代を反映させた小説を書く」ことの困難さを嫌というほど思い知らされた。
こんな時はどうすればいいのか。
小さな世界で起こる小さな小説を書くことが大事なのだと僕は思う。せいぜい半径5メートルの内側で進行する50枚以内の小説。
その半径5メートルの内側を丁寧に観察し、緻密に描写していくこと。それが大事だ。
時代にマッチしているかどうかなんて考えなくていい。取材? 行かなくていい。半径5メートルの内側にいる恋人をどれくらい深く愛しているか。それが書ければいい作品になる──続きはオンラインサロンでご覧ください)