新しいスタートラインに立つ 2 「愛する力」の喪失にどう抗うか  山川健一

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「私」物語化計画 2022年4月15日

特別公開:新しいスタートラインに立つ 2 「愛する力」の喪失にどう抗うか 山川健一

【本質的に変わってしまった世界】

COVID-19とウクライナ戦争によって、世界は本質的に変わってしまった。その激しい変容に、生身の人間が対応するのは不可能であるように思われる。

SNSを通して毎日、虐殺と拷問、強奪とレイプのニュースが届けられる。こんなことに耐えろという方が無理ではないか。

深夜、コンビニ帰りの公園で仄かに明るい空を見上げて、最近は旅客機が低空で飛ぶようになったが、少なくともここにはミサイルは飛んでこないのだと確認して僕はほっとし、しかしすぐにウクライナの人々のことを想起し、ほっとした自分を恥じる。

大きなものを失ったのはウクライナの人々だけではない。世界中の人々が喪失感を抱えて生きているのだ。

僕らは何を失ったのか?

思うに、「愛する力」を失ったのではないだろうか。

わずかの間に、国際秩序が一気に第1次世界大戦の前に戻ってしまった。世界は東西冷戦構造をさえ飛び越え、100年以上も逆戻りしてしまったのだ。武力によって他国を侵略し、市民を殺し領土を奪ってもいいのだという、植民地争奪戦の時代に戻ってしまったのだ。

ここでロシアの暴虐を止めることができなければ、次の餌食は旧ソ連のバルト三国だ。フィンランドやポーランドだって危ない。ポーランドの西はドイツで、そんな具合に戦火が拡大していけば第三次世界大戦の危機も非現実的なことではない。プーチンはこれ見よがしに核の鞄を持ち歩いている。
プーチンにとってウクライナはアメリカの植民地に見えていたのだろう。それを取り戻そうとするのは植民地の再分割の野望以外のなにものでもない。

そこに政治思想やイデオロギー、正義や理想なんてものはありはしない。国家間の紛争解決に武力を用いないという国連憲章は、結局何の役割も果たすことができなかった。

僕らは「愛する力」を失った。

それはつまり、あらゆる物語を失ったということだ。すべての物語で、愛の力がストーリーを前に進めるエンジンなのであり、こいつに確信を持てない今、「物語る」ことは非常に難しい。

 

【私の夢は、小学2年生になることです】

テレビ朝日が、ウクライナ人の写真家・アレクサンドルさん(46)とセルゲイさん(50)が子供達を撮影する様子を取材していた。ドニプロ市の鉄道駅にある臨時の母子センターの取材だ。この施設は鉄道で国外に脱出する市民が待機するための支援センターなのだが、その列車もいつ来るか、何人乗れるか、どこに向かうかすらも分からない。この番組は今もネットで見ることができる。

僕がショックを受けたのは、1人の女の子が「夢はなにか」という質問に答える様子であった。

彼女はこう言ったのだ。

「私の夢は、小学2年生になることです」──続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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