フランス映画に、本質的で魅力的な「偽敵」が登場する作品がいくつかある──

 

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「私」物語化計画　2021年11月26日

特別公開：物語における「敵」と「偽敵」について 4 フランス映画『ベティ・ブルー 』『ポンヌフの恋人』が示した困ったちゃん（偽敵）の原型　山川健一

【偽敵とは困ったちゃんのことである】

11月23日の火曜日にやった第四回《山川ゼミ》は、とても充実していた。オンラインでもここまで出来るのかと、僕も編集者N氏も自信を深めることができた。

まず僕が「小説を結末から書く方法」の講義をして、それから会員の皆さんのプロットを参加者全員で「偽敵と本敵」を意識しながら討議するという形式でやったのだが、それぞれ得るところが大きかったはずである。

とりわけ基礎コースの皆さんは、このゼミに参加すれば作品の講評や指導を受けられるので、有効に活用してください。

「事務局のKさんが前に出て来るようになって、それが良かった」という感想も複数人から頂いた。

僕の講義も、書いた文章（エクリチュール）では伝えきれない。「エネルギーを溜め込んでそいつを結末にぶつけなきゃダメなんだよね。感動的でインパクトのある結末を書くためにはプロットなんか無視して──」という具合に、話し言葉（パロール）でないと伝えきれない。ソクラテス的と言うかロックライクだと言うか、ま、僕は結局アジテーターなのだと思います。

次回は来年の1月です。
さて、今週は「偽敵」と「本敵」の話の続きである。

最初に大切なのは「偽敵」である。これをどうキャラクターメイキングするのかで、作品の全体が決定されてしまう。

敵と言うとどうも大袈裟になってしまうが、「偽敵」はストーリーが進行するのを止めようとする。これが重要な機能なのである。

3人の仲間が連休を利用して自転車で仙台に行こうということになる。待ち合わせ場所は渋谷駅だ。準備を整え主人公が渋谷の駅前にたどり着く。1人の友人は来るが、3人目が待てど暮らせど来ないのである。

携帯に連絡をしても、つながらない。仕方がないので彼のマンションまで行ってみることにする。玄関の鍵はかかっていなかったので勝手に入ると、件の友人は無言のままベッドサイドに腰掛けて頭を抱えている。事情を聞くと、昨夜恋人と別れたのだと言う。だから携帯も壊してしまったのだ、と。

この面倒臭い男こそが「偽敵」である。彼が待ち合わせに現れなかったことで、彼らは仙台旅行に出発できず、すなわちストーリーは停滞する。「偽敵」とは憎むべき敵と言うよりは、面倒臭い存在であり、困ったちゃんなのだ。

フジテレビの『東京ラブストーリー』は1991年に大ブレークし、2020年にリメイクされたが、リカがカンチに言うあの有名な台詞「カンチ、セックスしよっか」は健在であったらしい。

この台詞があるからこそ、困ったちゃんとしてのリカの存在が引き立つ。リカも典型的な「偽敵」だ。

マーベルユニバースのアベンジャーズのシリーズでは、アイアンマンのトニー・スタークもマイティ・ソーの弟のロキも、困ったちゃんである。つまりアベンジャーズという集団の中では彼らは「偽敵」なのである。

ローリング・ストーンズの創設メンバーでありドラッグで死んだブライアン・ジョーンズも困ったちゃんだった。ブライアンは、ストーンズという物語の進行をたっぷり遅らせた。

待ち合わせに来ない男、赤名リカ、トニー・スタークやロキやブライアン・ジョーンズのような「偽敵」キャラを創り、結末で「本敵」の存在を明らかにする。すると、魅力的な作品が出来上がるだろう。

 

【『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』における罪】

映画『ベティ・ブルー 愛と激情の日々　デジタル・リマスター版』予告編

 

フランス映画に、本質的で魅力的な「偽敵」が登場する作品がいくつかある。その中から2本の構造を見ていこう。

まず『ベティ・ブルー 愛と激情の日々』だ。1986年の作品で、僕は公開時に観て衝撃を受けた。監督はジャン＝ジャック・ベネックスであり、この映画は女優ベアトリス・ダルのデビュー作である。ちなみにフィリップ・ジャンの同名の小説が原作で、原題は“37°2 le matin”（37度2分・朝）というのだが、これは女の人の基礎体温の記録表記で、妊娠可能という意味である。

内容を紹介するが、古い映画なのでネタバレしますので、読みたくない方は飛ばしてください。

海辺のコテージで一人暮らしをする中年男性のゾルグは家主から言いつけられた雑用の仕事で生計を立てていたが、ある日、ベティという19歳の少女と出会う。ウエイトレスをしていたベティは店のオーナーに嫌気が差して、ゾルグのコテージに転がり込むことになる。

激しく惹かれあい、二人はセックスに耽る──続きはオンラインサロンでご覧ください）

 

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