特別公開:神秘を表現するのに、物語ほど有効な箱はない──『東京卍リベンジャーズ』 山川健一
小説を書こうとする多くの人が「神秘」を表現する誘惑に駆られる──
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「私」物語化計画 2021年7月30日
特別公開:神秘を表現するのに、物語ほど有効な箱はない──『東京卍リベンジャーズ』 山川健一
【トーキョー・コーリング】
東京では新型コロナの感染3000人を超えてオーバーシュート、小池百合子都知事は「1人暮らしの方々は、自宅を病床のような形でやっていただく」と記者会見で述べた。しかし多くの例が示すように、病状が急激に悪化して亡くなる人が多いわけで、この発言は事実上の棄民政策である。病院の状況がそれほど悪いということだ。癌の手術を控えている知人がいて、ちゃんと入院出来るだろうかと僕は密かに心配している。
今や多くの人達が、身近の誰かがコロナに感染して、中には大切な人を亡くした方々もいる。
東京は危機的な状況で、しかし時々iPhoneにニュース速報が入り、緊張しながら見ると「誰それが金メダルを取った」と。
このチグハグさを僕らは生きている。
国立競技場で会場運営ボランティアに向けて用意された弁当が大量廃棄されている。無観客開催となり、人員の数が減り、消費期限が切れる前に廃棄を指示したのだそうだ。コロナ貧困のために飢えた人達がいるというのに。スタッフのレイプ事件まで発生。グロテスクな光景だ。
パンク・バンドのクラッシュが1979年にリリースした「ロンドン・コーリング」を思い出す。「トーキョー・コーリング」である。
こちらはロンドン 遠くの町まで
宣戦布告だ 戦争が始まった
こちらはロンドン 下層階級の皆さんへ
少年少女たち、戸棚に隠れてないで出てきなよ
氷河期がやってきて 太陽が急接近してる
メルトダウンが起きそうだ 食糧は不作だし
エンジンは動作停止 でも俺は平気だぜ
ロンドンは水没寸前 そして俺は水際で生きてるのさ
The Clash – London Calling (Official Video)
https://youtu.be/EfK-WX2pa8c
こちらはトーキョー、トーキョー、トーキョー、俺たちは政府に棄てられ水際で生きてるのさ──。
【ユング、中国哲学、物語】
水際で生きながら、死について考える。あるいは、生について考える。僕らはなぜ生きていくのだろうか?
クラッシュのジョー・ストラマーも、2002年12月22日、サマセット州ブルームフィールドの自宅で心臓発作により若過ぎる人生にピリオドを打った。
どうせやがて死ぬと分かっているのに、なぜ僕らは努力するのだろうか? 世界のことが分かったとしても、英会話が得意になったとしても、プログラミングをマスターしてもやがて死ぬのなら意味はないのではないか。
個体は死んでも「種」としての人間が進化し続けていけばそこに希望があるから? いや、人類は今や地球に巣食った癌細胞みたいなものではないか。
僕がユングの集合的無意識について学びたいと願うのは、そうした文脈上のことだ。つまりこんなクソッタレな世界の片隅で生きていく意味を探したい。
──中略──
ユングは中国の道教をはじめとした哲学や仏教思想に接近し、東西の思想を架橋したのだと言われている。陽明学の「心即理」? 興味をそそられるが、こいつを学ぶのは無理かもな。残念ながら僕には息子ほどの時間が残されているわけではない。彼は「数学と哲学が、物理学と宗教が握手しなければもはや前に進めないというのは本当にそうだ思います」とも書いて来た。
さて、物語の出番である。
神秘を表現するのに、物語ほど有効な箱はないのである。ユングや東洋哲学よりも、小説やアニメやゲームの方が遥かに有効に神秘を描き得るということだ。逆に言うと、小説を書こうとする多くの人が「神秘」を表現する誘惑に駆られるということだ。
しかし、こいつは案外と難しい。
過去の人類と無意識を共有しているとか、超自然的な力を持つ男がいるとか、龍と会話出来るといった小説を書く時の注意点とは何か。
パターン別にそいつをレクチャーします。今週はその1回目だ。
例えば「何でもアリはダメ」だとか「何となくそうかもしれないと読者に思わせるパターン」とか「描写で有無を言わさずに押し切る」とか「細部のリアリティで読者を納得させるトリック」とか、いくつかの方法論がある。
今週は、「何でもアリはダメ」だというパターンについて学ぼう。
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