特別公開:世界文学のイノベーター達 03 ゲーテが問う、何のために生きるのか? 山川健一

ドストエフスキーがゲーテから学び、さらに僕らも学ばなければならないゲーテの作品の成果を二つに絞って解説する──

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「私」物語化計画 2021年2月12日

特別公開:世界文学のイノベーター達 03 ゲーテが問う、何のために生きるのか? 山川健一

今週のテーマはゲーテである。「難解そうだなぁ」という声が聞こえてきそうである。ゲーテは事実難解なので、あらかじめポイントを2つに絞りたいと思う。

ドストエフスキーがゲーテから学び、さらに僕らも学ばなければならないゲーテの作品の成果を二つに絞って解説する。

一つは、宗教・思想・哲学をいかに小説に取り込むのかということだ。

もう一つは、少女像をいかに構築すればいいのかということだ。少女とは天使なのか悪の源泉なのか?

僕らはドイツ文学やゲーテの研究をするわけではないので、あくまでも実践的な方法を学べるよう努力すればいい。

ゲーテは詩人であり劇作家であり小説家だった。同時に、色彩論、形態学、生物学、地質学、自然哲学、汎神論を学んだ自然科学者であり、政治家、法律家でもあった。ドイツを代表するオールラウンドな知識人だった。

しかし、ここではゲーテの三つの作品に絞って考えてみることにする。乱暴なようだが、この三作品で十分だろう。

『若きウェルテルの悩み』『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』という小説と、詩劇『ファウスト』である。まず、『若きウェルテルの悩み』から。

 

【『若きウェルテルの悩み』で描かれた不可能な恋愛】

『若きウェルテルの悩み』は、案外と読んだ人が多いのではないかと思う。1774年に刊行された書簡体の小説で、ゲーテはまだ20代だった。

(ここから先、ネタバレです)

青年ウェルテルが婚約者のいる女性シャルロッテに恋をして、叶わぬ思いに絶望して自殺するまでを描いている。

ウェルテルは郊外で開かれた舞踏会に出かけ、老法官の娘シャルロッテと出会う。ウェルテルは彼女が婚約者のいる身であることを知りつつ、感受性豊かな美しい彼女に恋をする。

ウェルテルはシャルロッテにたびたび会いにいくようになり、彼女の幼い弟や妹たちにも懐かれる。シャルロッテ自身も、もしかしたら俺のことが好きなのでは──とウェルテルが考える。夢想すると言った方がいいかもしれない。

しかし幸福な日々は長く続かない。そう、彼女の婚約者アルベルトがやって来るのである。ウェルテルは苦悩し、やがて耐え切れなくなってこの土地を去る。ここまでが一部である。

二部では、ウェルテルは新たな土地で官職に就く。公務に没頭しようとする。しかし俗世間の醜悪さ、形式主義に我慢ならなくなり、伯爵家に招かれた時に侮辱を受けたことをきっかけに退官してしまう。

数か月各地をさまよった後、やはりと言うか、シャルロッテのいる土地に戻ってくる。シャルロッテはすでに結婚しており、彼女も夫のアルベルトもウェルテルに冷たい。

この後いろいろあるが省略して、ウェルテルは自殺を決意する。彼は使いをやってアルベルトが所有しているピストルを借りようとする。アルベルトと使いの会話を聞いてシャルロッテは事情を察し、衝撃を受ける。だが夫の前ではどうすることもできず、ピストルを使いに渡してしまうのだ。

ウェルテルは遺書に、そのピストルがシャルロッテの触れたものであることに対する感謝を記し、深夜12時の鐘とともに筆を置き、自殺を決行する。

──これは、若きゲーテのほぼ実体験だと言われている。この小説を書くことで、ゲーテ自身は自殺しないで済んだのだった。

出版されるとヨーロッパ中でベストセラーとなり、ウェルテルを真似て自殺する者が急増した。そのためにこの小説は「精神的インフルエンザの病原体」と言われた。

この『若きウェルテルの悩み』は、ポール・ヴァレリーの「ジェノバの夜」のエピソード、アンドレ・ジッドの『狭き門』、ツルゲーネフの『初恋』のストーリーによく似ている。

明治時代の日本の文豪もこの作品によく似た構造の小説を書いた。夏目漱石の『こころ』である。「人妻に恋をして叶わず絶望する」というストーリーのバリエーションは、きっと普遍的なのだろう。『狭き門』の場合は、2歳年上の従姉であるアリサに恋をして、主人公のジェロームではなくアリサの方が死ぬわけだが。

ただし正直に言えば、ロックキッズの僕にはこうした世界がさっぱりわからない。「え、なんで死ぬわけ?」というような感じである。

しかし───続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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