特別公開:中学生のための小説教室 山川健一
文学を愛する心は、地球も愛するはずだ。文学の力で社会にコミットしようとする意志は、未来をポジティブに変える力を持っているはずだ──
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「私」物語化計画 2021年1月16日
特別公開:中学生のための小説教室 山川健一
『「私」物語化計画』の最年少は中学生の女子で、彼女は先日お母さんとともにZoomを使った《物語化計画ナイトカフェ》にも参加してくれた。ただ「毎週の講義が難しくてよくわからない」ということだった。
僕は文芸学科の大学院でも教えていたが、実は物語化計画での講義は大学院の講義よりも高度なので、中学生には難しいだろうと思う。
そこで今回は中学生に向けてわかりやすいように講義しようと思う。
大人の皆さんは中学生に戻った気持ちで読んでください。
【好きなものと嫌いなものを10個ずつあげる】
東北芸術工科大学で、毎年「オープンキャンパス」というのをやった。高校生に参加してもらい、大学の講義の内容を紹介したり、ワークしてもらったりする。
入学志望者獲得のためにやるわけだが、芸術大学なのでこれが好評で、大学から「中学生用のオープンキャンパスもやって欲しい。将来は小学生向けのイベントも企画してほしい」と要請された。
絵を描いたり彫刻を作ったりする学科は、中学生や小学生向けのイベントもやれるのかもしれないが、文芸学科ではそれは不可能だと僕は大学側に返答した。
なぜか。
それは、文学というものは自意識の存在なしには成立しないものだからだ。そして中学生の年齢で明瞭な自意識を持つ事は非常に難しい。簡単に言ってしまえば小説と作文は似て非なるものなのである。
僕から見ると大学生でもまだ幼い気質の人たちが多く、自意識の存在を確認するのが大変だった。
それで、物語化計画でも最初に書いてもらっている「ジェノバの夜」のレポートを課題として出したのだが、きっとあれをきっかけに学生自身も教師の僕も彼らの「自意識の在り処」を探り当てることができたのだろうと思う。
しかし、中学生ではこれもハードルが高い。
そこで、なんとなくでいいので、「自分はどういう人間なのか?」ということを考えてみて欲しい。これを簡単にやる方法は、好きなものと嫌いなものをそれぞれ10個ずつあげてみることだ。そう簡単には出てこないと言う場合は、この作業を1週間ぐらいかけてやっても良い。
【好きなもの】
- ゲーム
- アニメ
- 芸能人の誰か
- お母さん
- 国語の教科書に載っていた何とかという作家
- 自転車
- 家族で旅行で行った森
- 猫
- 晴れた日の海
- 秘密にしているけれど、クラスのある男子
【嫌いなもの】
- 勉強、特に数学
- 担任の先生
- うるさいだけのテレビ
- クラスのいじめっ子
- ややこしい日本の歴史
- 長距離走
- お洒落しなければという脅迫概念
- お金がないこと
- 地球温暖化
- 今はコロナで遊べないこと
ま、たとえばこんな具合だ。
10個ずつあげられたら、次にその理由を考えてみて、それを書いてみる。なぜゲームやアニメが好きなのか? 退屈な自分の現実を忘れさせてくれるから。では、学校に通う自分の生活は退屈なのか? いや、そうとも限らない──というふうに考えてみる。
なぜ数学か嫌いなのか? 大人になって使うとは思えない難解な数式を押し付けられるから。
担任の先生は女性で、怒りっぽいから嫌い。でもそれだけではなく、学校の言いなりで本当は生徒の事ではなく自分のことばかり考えているから。
するとあなたには、大人の欺瞞を見抜く目が備わっているということだ。
こんなふうに好きなものと嫌いなものについて考え、ゆっくり長い時間をかけて考え続けていくと、「私」というものの輪郭がおぼろげに見えてくるはずだ。
それがあなたの自意識の種、自意識の芽だ。
だから大切にしようね。
【400字1枚で何か書いてみよう】
おぼろげにでも自意識の種、自意識の芽が感じられるようになったら───続きはオンラインサロンでご覧ください)