特別公開:基礎的な文法の話──文体とは目的ではなく痕跡なのだ 山川健一

前回、江藤淳が「作家は行動する」という本の中で、作家は文体によって行動するのだと述べていることは紹介したが、これをわかりやすく表現すれば「作家は文体で物の見方を提示する」ということになるのではないだろうか。作家は文体で無限に広がる世界を観察し、選択し、小さな世界を創造する。つまり、物の見方を提示するのだ。

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「私」物語化計画 2020年1月24日

特別公開:基礎的な文法の話──文体とは目的ではなく痕跡なのだ 山川健一

文体とは、文章のスタイルのことだ。

英語では”style”と言う。シンプルだが、意味が広すぎてかえって曖昧だ。

文体の分類方法はいくつかある。

 

1. 「和文」「漢文」「和漢混淆文」など、言語の表記法による分類。

 

2. 「だ・である調」のような常体、「です・ます調」のような敬体など、文章の様式としての文体に分ける。

坪内逍遥は『小説神髄』の中で「雅文体」「俗文体」「雅俗折衷文体」などの例を挙げている。谷崎潤一郎は『文章読本』で「講義体」「兵語体」「口上体」「会話体」などの分類を挙げている。

まあ、今の僕らとしては書き言葉の「文体」に対し、話し言葉の「話体」があるということを理解しておけばいいだろう。

 

3. 作家や作品に固有の表現としての文体は、作家や作品の数だけ存在する。

僕らにとってはこれが問題なわけだ。

リズム感覚やレトリックの特徴、同じ言葉でも「私」と漢字で書くか「わたし」と開くか、改行の法則性とか──さまざまな事柄が作家に固有な文体を形作っている。

 

前回、江藤淳が「作家は行動する」という本の中で、作家は文体によって行動するのだと述べていることは紹介したが、これをわかりやすく表現すれば「作家は文体で物の見方を提示する」ということになるのではないだろうか。作家は文体で無限に広がる世界を観察し、選択し、小さな世界を創造する。つまり、物の見方を提示するのだ。

ここで重要なことがある。それは「物の見方」を掲示するためには、そもそも「物」を設定しなければならないということだ。今の言葉で言うならば、コンテンツは何かということである。

女子高生や女子中学生の友情を描くのか(ライトノベル)、雪が降り積もる森の中で暮らすリスたちをめぐストーリーを描くのか(ファンタジー)、北朝鮮から背乗りで潜入した工作員の孤独を描くのか(サスペンス)、江戸時代の商人の営みを描きたいのか(時代小説)、あなたが描きたい「物」によっておのずと文体は違ってくるということだ。

書簡体という文体があるとして、現代の大学が舞台であるのと明治時代の書生たちの生活を描くのとでは文体は大きく異なるだろう。両者にはコンテンツとしての大きな差異があるからだ。

つまり僕が言いたいのは、「文体」について抽象的に考えるよりも、何を書くのかを考える方が先決だということだ。

この件に関しては後で詳しく述べます。

 

【文体模索の裏技1】

誰しもが、個性的な文体を獲得したいと願っている。下手クソでもいいから、自分に固有な文体で小説を綴っていきたい。多くの人は、そう願っている。この僕にしても、同じような欲望を胸の内に抱えているわけだ。

だが、これは原理的に非常に難しい。

なぜかというと、前に述べたことがあると思うが、オリジナルな言葉というものはこの地上に一つも存在しないからである。「おはよう」なら意味は通じても「おそよう」ではどういう意味なのか誰にもわからない。

誰もオリジナルな日本語というものを作り出すことができないくせに、オリジナルな文体で文章を書きたいと願っている。

これは、あらかじめ不可能な恋に身を焦がすようなものである。

だが、どんな世界にも裏技というものが存在する。

文体模索の裏技には、ぼくが知る限り二つの方法が存在する。

一つは、真似するということだ。模倣するのだ。赤ん坊の頃母親に「マンマ」などという言葉を習ったのと同じことだ。

だが今やあなたは大人で、広辞苑を引かないとわからないような難解な言葉はともかく、普通の日本語はほとんど知っている。だから今度は、その組み合わせのパターンを模倣するのである。

自分が書きたい世界、書きたい「感情」をどう表現すればいいのか。その世界のヒーロー達はどんな組み合わせを採用しているのか。それを研究すればいい。

既存の作家の小説でもいいし、現代詩でもいい。好きなミュージシャンの歌詞でもいい。この場合、その歌詞が英語であっても大丈夫だ。

大切なのはその前に…..,(特別公開はここまで、続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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