特別公開:物語論から学ぶ4 プロップの「7つの行動領域」とは何か? 山川健一
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『 今の感覚で言うならば、この行動領域はキャラクターと言って良いかもしれない。ただし、これらのキャラクターが「時間的展開」を達成するための行為の領域が7つあるとプロップは分析しているわけだ。フロップは「登場人物が何をするか(動詞)」に注目して物語を分類しているわけです。
それでは、『桃太郎』を素材にプロップの行動領域について考えてみよう。『桃太郎』では7つの領域のうちの4つを使っている。』
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「私」物語化計画 2019年7月26日
特別公開:物語論から学ぶ4 プロップの「7つの行動領域」とは何か? 山川健一
前回の復習から。
プロップは、魔法昔話に現れる要素を定項と不定項に分けて考えた。
不定項というのはそれぞれの物語によって異なる要素で、登場人物などのキャラクター、あるいは住んでいる場所や時代など個別の事柄が全て不定項だ。
そして「人物の行為」が定項である。
これがプロップ最大の発見だった。
プロップが言う「行為」とは、物語の筋の展開に直接影響を及ぼす人物の行為のことだ。
物語の筋に関わる人物の行為(イベント)をプロップは「機能」と呼んだのである。
この機能が31ある。
ここまでが復習です。
そしてこの機能の順番が入れ替わることはない。
1. 「留守もしくは閉じ込め」 両親の死などによって主人公が1人になる。
2. 「禁止」 例)この部屋を覗いてはいけない。
3. 「違反」 禁を破ると敵対者が現れる。
1から3までの機能は、この順番で進行しなければならない。プロップが研究対象にしたロシアの魔法昔話では例外なく最初に家族の誰かが家を留守にし、主人公は取り残される。
そして「ノックする音がしても決してドアを開けてはいけませんよ」という「禁止」事項が言い渡される。だがこの禁止は破られる。
これがロシア魔法昔話の王道パターンだが、日本の昔話だって同じ構造を持っているものが多い。『浦島太郎』は結局のところ玉手箱を開けてしまうし、『鶴の恩返し』では機織りをする妻の部屋を覗いてしまうのだ。
現代小説においても、旅行に出かける前に妻が「決して妹には会わないでね」と禁止事項を告げ、僕らの現実的な普通の日常生活ではこの禁止事項は守られるのだが、物語ではそうはいかない。
主人公は妻の妹に会い、たちどころに心を惹かれ、実はそれには過去の因縁が──という展開になると物語が始まる。
機能1から3までだけでこうした展開が考えらるわけだが、プロップはこうした機能を31も抽出したのだ。
プロップ以降、物語研究者たちは「機能」、すなわち物語の時間を展開させる行為を分析対象としていくことになる。
プロップの理論を一言で表現するならば、こういうことになるのではないだろうか。
《物語とは、時間的展開がある出来事を言葉で語ったものである》
時間的展開があるというは、人物が何らかの行為を行うことである。ただし、主人公の意志的な行動以外でも、それは起こり得る。
駅への道を急いでいた少年が角を曲がったら、少女と肩がぶつかった──という展開なら、典型的な「ア・ボーイ・ミーツ・ア・ガール」ストーリーになる。
ハードボイルドの主人公の探偵の部屋で、電話が鳴る。これも物語における行為の1つで「機能」を果たすことになるだろう。
少年と少女の曲がり角での衝突も、探偵事務所で電話が鳴るのも、物語の時間を先に進めている。これが「時間的展開がある」ということなのだ。
僕ら小説の実作者は、無駄なことをなるべく書かずに「時間的展開がある」機能=行為を書くように努めなければならないのだと思います。
プロップには31の機能分類の他に「7つの行動領域」と言う理論がある。
説明するよりも、まず見て頂こう。
【7つの行動領域】
1. 敵対者(加害者)
2. 贈与者(主人公を援助する人)
3. 助力者
4. 王女(探し求められる者)とその父
5. 派遣者(送り出す者)
6. 主人公
7. 偽主人公
今の感覚で言うならば、この行動領域はキャラクターと言って良いかもしれない。ただし、これらのキャラクターが「時間的展開」を達成するための行為の領域が7つあるとプロップは分析しているわけだ。フロップは「登場人物が何をするか(動詞)」に注目して物語を分類しているわけです。
それでは、『桃太郎』を素材にプロップの行動領域について考えてみよう。『桃太郎』では7つの領域のうちの4つを使っている。
【『桃太郎』の4つの行動領域】……(特別公開はここまで、続きはオンラインサロンでご覧ください)