人間=キャラは、どんなパーツで成立しているのか 山川健一

小説とは、様々な人間が自らの欠落を埋めるために奔走する様子を、まことしやかに語るものだ──

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「私」物語化計画 2022年6月24日

特別公開:人間=キャラは、どんなパーツで成立しているのか 山川健一

キャラクターとは人間である。そして小説とは、様々な人間が自らの欠落を埋めるために奔走する様子を、まことしやかに語るものだ。これに尽きる。

ポイントは2つ。

小説にとって重要なのはキャラ=人間だということ。

キャラは架空の存在なのだが、本当に社会のどこかで生きて呼吸しているように作家は上手に嘘をつかなければならないのだということ。

嘘?

いやいやどうして、小説の登場人物が現実の人間を超える場合がある。そこが小説の妙というものだ。

キャラクター・メイキングを成功させるために、「私」を分割せよと僕は書いた。この方法論を前提に、今回は具体的な技をお伝えしよう。

まず人間=キャラは、どんなパーツで成立しているのかを考える。

  1. 文化的な背景
  2. 肉体性
  3. 思想、哲学
  4. 使命
  5. 欲望と希望
  6. 予想外の突発性

この6つが、最低限の部品で、部品を確定して組み立てるとキャラが生まれる。順番に見ていこう。

 

【文化的な背景】

文化的な背景というのは、そのキャラが小学生だとか、ゲーム業界で仕事をしているとか、医療の現場が職場であるとか、そういうことだ。

これがキャラクターのワールドモデルなのだ──(略)──

 

【肉体性】

肉体性というのは、現実の人間は腹が減ったり虫歯が痛んだり、重要な場面で便意を催したりするという事実だ。小説のキャラは──(略)──

この肉体性ということでほとんど文学的な事件と言っていいのが、谷崎潤一郎『細雪』の結末部分である。

引用する。

 

それにどうしたことなのか数日前から腹工合が悪く、毎日五六回も下痢するので、ワカマツやアルシリン錠を飲んで見たが、余り利きめが現れず、下痢が止まらないうちに廿六日が来てしまった。と、その日の朝に間に合うように、大阪の岡米に誂えて置いた鬘(かつら)が出来て来たので、彼女はちょっと合わせて見てそのまま床の間に飾って置いたが、学校から帰って来た悦子が忽ちそれを見付け、姉ちゃんの頭は小さいなあと云いながら被って、わざわざ台所へ見せに行ったりして女中たちを可しがらせた。小槌屋に仕立てを頼んで置いた色直しの衣裳も、同じ日に出来て届けられたが、雪子はそんなものを見ても、これが婚礼の衣裳でなかったら、と、呟きたくなるのであった。そう云えば、昔幸子が貞之助に嫁ぐ時にも、ちっとも楽しそうな様子なんかせず、妹たちに聞かれても、嬉しいことも何ともないと云って、けふもまた衣えらびに日は暮れぬ嫁ぎゆく身のそゞろ悲しき、と云う歌を書いて示したことがあったのを、図らずも思い浮かべていたが、下痢はとうとうその日も止まらず、汽車に乗ってからもまだ続いていた。

谷崎潤一郎『細雪』(青空文庫)

 

──(略)──

なんでだよ!

あんまりだ!

僕は最初は呆れ果て、それから考え続け、この下痢のエピソードが推敲時に加筆されたということを知り──頭を垂れて密かに拍手したのであった。

さすがに大谷崎である──(略)──

 

【思想、哲学】

思想や哲学というと難解なようだが、そのキャラクターの考え方、という程度で構わない。哲学書に書かれているような体系だったものではなく、キャラの肉体を前提にした考え方である。

こいつを──(略)──

 

【使命】

思想と哲学は、登場人物に使命を与える。これもまた、可能な限り具体的であるべきだ。それを実現するために主人公は旅立つのであり、行手には困難が待ち受けている。困難を克服して──(略)──

 

【欲望と希望】

誰にでも欲望というものがある。名声を得たいとかカネが欲しいとか性的な欲望とか、いろいろある。キャラクター別に、欲望の質と量を決定することが必要だ。

そして重要なのは──(略)──

 

【突発性】

小説というものは、無限に続いていく時間のどこかに切り込みを入れてスタートさせ、どこかの段階でピリオドを打ち終わらせるものだ。その世界は完結しているように見える。だが──続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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