キャラクターメイキングの技術を磨く 4 物語冒頭の「欠落」には二種類ある──向田邦子をテキストに 山川健一

小説は主人公の「欠落」「欠如」から書き起こされ、そいつを回復するために旅に出る──それがストーリーになる

次代のプロ作家を育てるオンラインサロン『「私」物語化計画』会員用Facebookグループ内の講義を、一部公開いたします。

ご興味をお持ちの方は、ぜひオンラインサロンへご参加ください

 

『「私」物語化計画』

→ 毎週配信、山川健一の講義一覧

→ 参加者募集中→ 参加申し込みフォーム

 

「私」物語化計画 2022年1月28日

特別公開:キャラクターメイキングの技術を磨く 4 物語冒頭の「欠落」には二種類ある──向田邦子をテキストに 山川健一

【世界の存続、もしくはキャラクターに関する欠如】

物語の冒頭には「欠落」「欠如」がなければならない。主人公はその欠けたものを埋めるために、物語の地平を駆け抜けてゆくのである。

小説ならば、冒頭の3行から5行の間でこの欠落が示されなければならない。

そしては「欠落」「欠如」には、二種類ある。

 

■物語の前提になる欠落■

  1. 世界の存続に関わる欠落
  2. 登場人物に関わる欠落

 

夏に日照が続いたので、秋に収穫することができなかった。村は深刻な食糧不足に襲われることになった──これが「1」である。

朝起きたら恋人が姿を消していた、会社を解雇された、オミクロンに感染した、生きる気力を失った──これが「2」である。

僕が最近愛好しているマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の映画などは、ほぼ「1」である。大雑把過ぎるかもしれないが、血脇肉躍るエンターテインメント小説の長編を書く場合などは、「1」でいった方が良い。中短編や純文学系は「2」のケースがほとんどである。

ちなみに、マーベル・シネマティック・ユニバースの映画の最新作は『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』なのだが、これは「1」と「2」のダブルだった。

この映画は『スパイダーマン ホームカミング』『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』に続くMCUのスパイダーマンシリーズの第3弾であり、同じくMCU作品の『アベンジャーズ インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ エンドゲーム』でもスパイダーマンと共闘した、ベネディクト・カンバーバッチ演じるドクター・ストレンジが登場する。

カンバーバッチは非常に魅力的な俳優で、僕は彼のファンである。彼の他の作品も観られるだけ観たが、テレビドラマの『SHERLOCK(シャーロック)』も上出来であった!

話を『スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム』に戻すが、前作でホログラム技術を武器にするミステリオを倒したピーターだったが、ミステリオが残した映像をタブロイド紙の「デイリー・ビューグル」が世界に公開してしまう。これでピーターにはミステリオ殺害の容疑がかけられてしまい、さらに「スパイダーマンはピーターだ」と正体を暴かれてしまう。

マスコミに騒ぎ立てられ、世界中を敵に回したピーターは窮地に追い込まれ、魔法を操るドクター・ストレンジに「魔術の力で自分がスパイダーマンだと知られていない世界にしてほしい」と頼むのである。

これは世界の危機であるのと同時に、ピーターというキャラクターのアイデンティティの危機でもある。つまり欠如は「1」と「2」のダブルなのであり、そこがこの映画の面白さを際立たせている。

さて。

僕らは巨費を投じて映画を制作するわけではなく、小説を書くわけだから、最低限「2」の登場人物に関わる欠落を描く方法を身につけなければならない。

 

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』予告3 1月7日(金)全国の映画館で公開!  #全ての運命が集結する ── https://youtu.be/-XT5bbq6CU4

【向田邦子「かわうそ」の方法論】

今回テキストとして扱うのは、向田邦子さんの「かわうそ」である。短編集の『思い出トランプ』の最初に収録されており、向田さんはこれらのいくつかの短編連作で直木賞を取り、およそ1年後に台湾の飛行機事故で亡くなった。

その「かわうそ」の冒頭部分である。

 

 指先から煙草が落ちたのは、月曜の夕方だった。

宅次は縁側に腰かけて庭を眺めながら煙草を喫い、妻の厚子は座敷で洗濯物をたたみながら、いつものはなしを蒸し返していたときである。

向田邦子『思い出トランプ』所収「かわうそ」(新潮文庫)

 

ようするに主人公の──続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

→ 毎週配信、山川健一の講義一覧

→ 参加者募集中→ 参加申し込みフォーム