特別公開:年末の1週間に立て続けに起こった出来事──最後の砦としての文学 山川健一

今週立て続けに僕らの人生観を揺るがしかねない事があった──

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「私」物語化計画 2020年12月18日

特別公開:年末の1週間に立て続けに起こった出来事──最後の砦としての文学 山川健一

今年も残りわずかとなった。残りの2回は講義ではなく、「2020年を振り返って」というテーマでエッセイをお届けするつもりだった。夏目漱石とポール・マッカートニーのことを書くつもりでいた。

去年の今頃、『「私」物語化計画』の皆さんと一緒に早稲田にある漱石山房記念館へ行き、漱石カフェでお茶をする企画を考え、その下見にかつての学生と一緒に足を運んだことがある。そんな話を書こうかなと思い、漱石を読み返したりしていた。

ちなみに、毎週この連載原稿を書くのは案外大変で、書いている時だけではなく、何を書こうか風呂に入っている時にも道を歩いている時にもなんとなく考えている。

大袈裟でも何でもなく、僕は物語化計画と共に生きている。これは不思議な体験だ──と、最初から脱線してはいけないね。

ところが、2020年を振り返るどころの話ではなく、今週立て続けに僕らの人生観を揺るがしかねない事があった。

決して明るい話ではないのだが、お付き合いください。

 

【神奈川のホテルで軽症の男性が亡くなった】

まず12月11日、コロナ肺炎で療養していた神奈川の50代の男性が亡くなった。病院ではなく、神奈川県が用意したホテルで療養中に亡くなったのだ。

県は、「死因は、新型コロナウイルスによる急性気管支肺炎だった」と発表した。

この男性は、今月9日から県が用意したホテルで療養していた。つまり「軽症」だと診断されたわけだ。

男性は午後3時に行っている無料通信アプリでの健康観察に、回答しなかった。

その後も電話がつながらず、午後8時前に看護師などが部屋を訪れ、倒れている男性を見つけた。

男性は当初から血液中の酸素濃度が低いことがあり、11日の午前中も86%と医師の診察が必要な数値だったが、本人が「息苦しさはない」と話したことなどから経過観察とし、診察は行わなかったということだ。

県は、看護師などが部屋を訪ねるまでに時間がかかったことについて「重く受けとめている」としている。

今後は、療養している人の酸素濃度が低くなった場合は、直ちに医師に報告するほか、連絡がとれなくなった場合は、速やかに部屋を訪問するとしている。

神奈川県医療危機対策本部室の篠原仙一室長は、「軽症だと思い込まず、速やかに安否確認をする必要があった。有識者から意見を聞くなどして再発防止のための改善策をとりまとめたい」と話した。

9日に療養施設に入った「軽症」の男性が、11日に亡くなった──これは、今の日本なら誰にでも起こり得ることだ。

病院のベッドや医療従事者に余力があれば、この男性だって入院出来たはずだ。僕は神奈川県の医療体制を批判しているわけではなく「ああ…!」と天を仰ぐ気持ちなのである。

 

【大阪で転院先が見つからず患者が死亡】

そして14日、大阪。

大阪府の病床の逼迫を受け、大阪民主医療機関連合会(大阪民医連)が14日に大阪市中央区の事務所で記者会見し、「入院患者の感染判明後、転院先となる専用病床を持つ病院が見つかる前に死亡するケースがあった」ことを報告した。

大島民旗会長は「新型コロナウイルスによる医療崩壊は進行している」と危機感を強調し、悪影響が医療従事者にとどまらず、患者や介護の現場にも波及している状況を訴えた。

大島会長のほか、加盟する医療機関の医師らもリモートで会見に出席し、新型コロナの検査、治療が医療従事者に大きな負担になっており、一般患者数の減少で赤字経営になったことなどを紹介した。

病院に勤めるソーシャルワーカーからは、患者の多くが経済的困窮に陥っている現状が報告された。

コロナ感染の不安から通所系サービスやショートステイの利用者が大幅に減少し、「加盟する介護事業所の3分2が赤字経営。このままなら介護も崩壊する」と厳しい見通しを示したのだそうだ。

僕の友達に世田谷区の病院で看護師としてコロナを担当しているシングルマザーの友達がいるのだが、大変だろうなぁと思い、最近はお茶にも誘えない。

医療現場で働く看護師は限界を超えて働いているのだろう。「死ぬ覚悟で働いてます」と彼女はメールで言っていた。子供はまだ小学生なのだが──。

大阪府での会見で大島会長は「本来なら助かるべき命が助けられないことが医療崩壊。現場のわれわれはリアルに感じ取っている。通天閣を青くする必要はないから、感染者を少なくする施策を」と要望した。

これもまた大阪のみならず、日本のどこでも、東京でも起こり得ることだ。

 

【大阪で母娘が餓死】

さらに、15日。この原稿を僕は水曜日に書いているので、つまり昨日だ。

大阪市港区築港のマンションの一室で、母娘が餓死しているのが発見された。体重30キロ、冷蔵庫には食料がほとんど残っていなかった。

港署は14日、司法解剖の結果2人が餓死したとみられると発表した。1人は職業不詳の女性(42)と判明。もう1人は彼女の母親(60歳代)とみられ、死後数か月が経過していた。

発表では、職業不詳の女性の死因は低栄養症による心機能不全、もう1人の死因は飢餓による低栄養症とみられる。11日午後、2人が室内の床に倒れているのを同署員が見つけ、死亡が確認されたとのことだ。

 

これら3つのニュースに立て続けに接した僕らは、一瞬、判断停止に陥るのではないだろうか。そして餓死した母娘のことを含め、それは誰にでも起こり得ることであり、自分が当事者であっても少しの不思議もないと感じるのではないだろうか?

これが、2020年の僕らのリアルである───続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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