特別公開:まだ形になっていない新人の書く小説 山川健一
新人の皆さんが書いた原稿は、「書きたかった原稿」とイコールではない場合が多いということだ。書きたかった作品と、実際に書かれた小説は一致しない──
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「私」物語化計画 2020年6月5日
特別公開:まだ形になっていない新人の書く小説 山川健一
呼びかけに応じて、会員の皆さんからメールやプロットや作品が送られてきている。
メールのほうは外出を自粛する毎日の大変さについての近況報告をしてくださってくれる他に、控えめにだったり、またはストレートにだったりと言い方は様々だが、「講義のスピードが速すぎる」という感想が多い。コロナで大変で、トーマス・マンだってまだ読めてないのに、というわけだ。
なるほど。反省しなければならない。
一方プロットや作品に関しては、物語論をベースにしたこれまでの僕の講義テキストを読み返していただければ、「そこにちゃんと書いてあるじゃん」と思ったりもした。僕は皆さんのプロットや原稿に簡単にアドバイスするわけだが、これまでの講義原稿を読み返していただくのがいちばん早い。つまり復習してほしい。それが僕の正直な感想だ。
書き出しには欠落がなければならないとか、叙述と描写を書き分けなければいけないとか、直喩と暗喩が大事だとか、隠された父の発見を設定しなければならないとか、そもそもワールドモデルをきちんと構築しなければならない──とか、そういうことだ。
いろいろ考え、少しスピードを落とすことにする。
それから、Facebook内でこれまでの講義テキストを読み返していただくのは大変だろうと思うので、それをまとめたものを単行本にしたいと思うので、少しお待ちください。
【プロットの重要性】
一つ書いておきたいのは、プロットのことだ。
皆さんが送って下さるプロットは、プロットでない場合がほとんどだ。書き出し部分の原稿であったり、ざっと書いた草稿である場合が多い。こういうのは「プロット」ではありません。
プロットとは、小説で起こる出来事の因果関係を書き記したノート、メモであり、建築物でいう骨組みのようなものだ。プロットとは、推理小説でいう動機であり、エピソードの羅列ではないのだ。だから2、3枚程度の長さに収まるはずだ。
前にも書いたが、大切なことなのでその部分をもう一度書き記しておく。
プロットとは何か?
ストーリーとプロットは違う。
プロットとエピソードも別のものだ。
時間の流れに沿ってお話が続いていくのがストーリーだ。一つ一つのお話がエピソードである。
そしてプロットとは、ストーリーを構成するエピソードを、論理的に関連づけて再構成した設計図だ。基本的なプロットの構造は、たとえば「起承転結」だ。
物語の中で起きている「エピソード」を時間軸に沿って並べたものが「ストーリー」であるのに対して、その「エピソード」を再構成したものが「プロット」なのだ。つまりプロットとエピソードは正反対のベクトルを持っている。
プロットとはいわば小説の工学的な側面、論理的な構造を成立させるための設計図なのだ。これが不十分だと、作品は単なるエピソードの羅列になってしまい、小説にならないのだ。
・お妃が病気になった。
↓
・王様は国中薬を探させた。
↓
・薬は見つからず、お妃は亡くなった。
↓
・悲しみのあまり王様は深酒するようになった。
↓
・肝臓を悪くし、王様は亡くなった。
これがストーリーである。
プロットはこの反対だ。
・王様が亡くなった。
↓
・深酒するようになり肝臓を悪くしたからだ。
↓
・国中探した薬が見つからなかったったのだ。
↓
・病気になったお妃のための薬である。
これがプロットだ。
ストーリーを話すと聞いているほうは「それで?」と聞く。「それでどうなったの?」と聞くわけだ。プロットを説明すると「なんで? なんでそうなったの?」と聞く。
簡単に言ってしまえばプロットとは物語を作るときの設計図、構想のことです。そこには、物語の「あらすじ」「登場人物のキャラクターメイキング」「関係性」「事件」、そして使用される重要な「小道具」などが含まれる。
『「私」物語化計画』のメンバーの皆さんなら、物語の前提となる「欠落」、旅立ちを決定づける「橋守」、その後の「イニシエーション」、そして「隠された父の発見」などがプロットにおける重要なアイテムであると既にご存じのはずです。
こうしたものがゆるぎないワールドモデルの中で成立していなければならないのだ。したがってまず最初に明確なワールドモデルを構築しなければならない。
というわけで、「プロット」を送ってください。スクーリングができない今、基礎コースの方にも対応します。僕は自分が小説家でもあるので、プロットを見ると完成した小説世界の全体を想定することができます──続きはオンラインサロンでご覧ください)