特別公開:緊急講義3 クライムノベルは何を達成できるか? 『歓喜の歌』におけるナレーターの問題 山川健一

次代のプロ作家を育てるオンラインサロン『「私」物語化計画』会員用Facebookグループ内の講義を、一部公開いたします。

『先日のスクーリングでも言いましたが、小説と言うものは「これは本当にあったことだ」と読者が感じることのできる自然な流れを実現しなければならない。そのためにこの作品で僕が採用したのが「編集的全知」「神」というレイヤーだったわけだ。

もっともこうした展開を読者の方々が自然に感じてくださるかどうかは、読者の方々次第だと言うほかない。不自然だなと感じる方がいらっしゃるなら、僕の努力が足りなかったのだ。

普通に書くよりは高度な技術が必要ですが、参考にしてみてください。

ご興味をお持ちの方は、ぜひオンラインサロンへご参加ください

 

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「私」物語化計画 2019年6月14日

特別公開:緊急講義3 クライムノベルは何を達成できるか? 『歓喜の歌』におけるナレーターの問題 山川健一

クライムノベル(犯罪小説)は、通常の小説よりも明確な構造を持っている必要がある。明確と言うよりは、大きく大胆な構造を持っていると言ったほうがわかりやすいかもしれない。

簡単に言えば、ストーリーラインがはっきりしている必要があるわけだ。

さらに言うなら、「あらすじドットコム」を主宰している、僕の友人でもある今井昭彦(ぴこ山ぴこ蔵)さんの言う「どんでん返し」、僕自身が前の講義でも述べた「力学の逆転」が用意されていれば申し分ない。

もっとも、「どんでん返し」と「力学の逆転」はよく似ているがイコールではない。「どんでん返し」とは、犯人はAだと思っていたら、実はBだったというケースで、これには驚くほどのパターンがある。

「力学の逆転」とは、簡単に言えば支配していると思われた登場人物が実は支配されていたという構造を指す。

これにも「汚れた存在だと思っていた女が聖女だった」とか「主人公のもっとも良き理解者だと思われた人物が実は主人公を陥れようとしていた」とか「とても弱いと思っていた人の芯がとても強かった」とか無限のパターンが存在し、「どんでん返し」とかなり近い部分もある。

いずれにせよ。読者が最後で、

「えっ、そうなのか!」と驚いたり「えーっ、そうだったのか……」としみじみ感動したりする仕掛けが欲しい。

 

通常の小説ならば、「欲望」があり、これから「欠落」が生じ、主人公は嫌々「旅立つ」。

旅立った主人公はいくつかのイニシエーションを経験する。イニシエーションとは単純に言ってしまえば、越えなければいけないハードル、つまり「困難」「障害」のことだ。

やがて主人公は思いがけない「助言者」と出会い、それまでに気がつくことができなかった父親の秘密を聞かされる。

これが「隠された父親の発見」だ。

父親が登場しない小説の場合は「隠された秘密の開示」でこれを代替させる。

 

秘密は物語の中盤以降で明かされるわけだが、クライムノベルにおいてはこれが犯行の「動機」に相当する。

クライムノベル、ミステリー、推理小説において「動機」ほど重要なものはない。

推理小説において5W1Hが必要なことは言うまでもないが、どんなに描写が秀逸でも、トリックがよくできていても、「動機」が描き切れていない原稿はお話なのであって、小説とは言えない。だから無差別殺人などを素材にするのは非常に難しいのだ。

プロットの段階で、「動機」をきちんと設定し、これから導き出される結末と、結末における「どんでん返し」「力学の逆転」を作る。心理が分析可能な犯行ならばそんなに難しいことではない。クライムノベルの場合、必ず「犯行」があるわけで、犯人は殺されるか逮捕されるかのほぼ2択しかない。

そういう意味では真ん中に通すメインのストーリーラインはシンプルなはずなのだ。

 

犯罪を犯す→逮捕されるか死ぬ
抑圧されている→犯行に及ぶ

ただし、クライムノベルの場合、「犯行」を冒頭に置くか結末に置くかで構造

が大きく変わってくる。さらに第3の方法として、「行為者」(犯人)と「認識者」(刑事とか恋人とか)を分割するパターンがある。

 

それぞれのパターンを自分の作品を例に解説しましょう。

【犯行を冒頭に置く】『歓喜の歌』のケーススディ

 

セックス出来ないカップルに愛を求める資格はないのか、というのがこの小説のテーマである。

犯行を……(特別公開はここまで、続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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