特別公開:大人のための「起承転結」教室 山川健一
ストーリーを書く順番には黄金の法則があり、それが起承転結だ──という話を先週書いた。今回はそれを発展させた大人バージョンだ。
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「私」物語化計画 2021年1月22日
特別公開:大人のための「起承転結」教室 山川健一
ストーリーを書く順番には黄金の法則があり、それが起承転結だ──という話を先週書いた。今回はそれを発展させた大人バージョンだ。
【杜甫の絶句】
起承転結は4行から成る漢詩の絶句の構成から来ている。1行目から順に起句、承句、転句、結句である。杜甫の『絶句』が有名だ。
杜甫は実は8句で構成される「律詩」を得意としており、杜甫と並んで中国文学史上最高の詩人と呼ばれる李白は自由奔放な作風で、4句からなる「絶句」を得意としていた。杜甫の代表作の「春望」も律詩で、この詩の冒頭の「国破れて山河在り」はあまりにも有名だ。
原発事故の時に僕は新幹線で山形に通っていたのだが、「国破れて山河も残らないのだな」と思ったものだった。
2人は、「絶句の李白、律詩の杜甫」と呼ばれるようになるのだが、ここでは覚えやすい杜甫の絶句を取り上げる。
杜甫が蜀(四川省)のあちこちを放浪した後に成都にあった簡素な庵、草堂に戻ってきて詠んだ歌である。
〈絶句──杜甫〉
江碧鳥逾白
山青花欲然
今春看又過
何日是帰年
《書き下し文》
江は碧にして鳥はいよいよ白く
山は青くして花は燃えんと欲す
今春みすみす又過ぐ
何れの日か、是れ帰年ならん
《現代語訳》
長江の水は深いみどり色に澄み
背景の鳥たちはよりいっそう白く見える
山は青々と生い茂り、
花は燃えるようにあざやかな赤だ
今年の春もあっというまに過ぎ去ろうとしている
いつになったら故郷に帰ることができるのだろうか
杜甫の絶句は、起句・承句はカメラでいうところの「引き」の画になっていて、山河の風景をドローンカメラで撮るように描写している。
ところが、転句でカメラが急速にズームアップし、「寄り」の画で詩人その人を映し出し、結句で故郷に帰れない哀しみを告白する。
転句でカメラがダイナミックに動くことで、「雄大な自然と、ちっぽけな人間」という構図が成立し、読む者を感動させるのである。
杜甫は53歳の春、この『絶句』を読んだ。
実は僕の息子が大学院まで行って漢詩を学んだのだが、「漢詩と言えばやっぱり李白だろう」と僕は彼に言ったことがある。
李白には酒に酔い水に映った月を取ろうとして舟から落ちて死んだという伝説があるが、これがあまりにも鮮烈なので、漢詩と言えば仙界への憧憬を胸に抱いて詩作した天才肌の李白だろうと多くの素人は思うのではないだろうか。
「李白観瀑図」という水墨画を色々な画家が残しているが、これは李白が滝を見ている絵であり、見ている人物は李白でないとダメなのである。
そんなふうに考えていた僕に息子がこう言った。
「杜甫は官職を捨て、家族を連れて中国各地を転々としたんだよ。これはすごいよ」と。
それは確かに凄いなと思い、僕も杜甫を見直したのである──ちゃんと読んではいないが。亡くなった恩師の漢詩の全集を頂いたのでいつでも読める環境にはなっているので、いつか読もうと思う、
李白が酒に溺れるような浪漫主義者であり、杜甫は現実主義の代表者だった。
2人は同時代人で実際に会ったこともあった。杜甫が33歳頃に出会い、2人は意気投合し、約2年の間ともに旅をしたり、酒を飲んだりしながら語りあったそうだ。
後に「詩仙」と呼ばれる李白はこの時44歳で、杜甫よりも10歳も年上であったのに、杜甫は生意気にも李白を友人扱いした──というような話も息子に聞いたが、酒を飲んでいたし細かいことは皆忘れてしまった。
ちなみに杜甫は「詩聖」と呼ばれる。
豪華な暮らしを営む王侯貴族の城塞の外で多くの民草が飢えて死んでいく様を見て、怒りの詩を詠んだりもしている。社会や政治の矛盾を、積極的に詩の題材にしたのだった。こういう姿勢を僕はリスペクトしている。
杜甫は44歳の時にやっと得た官職を捨て、家族を引き連れて放浪し、59歳で亡くなっている。ドングリや山芋などを食いつないで飢えを凌いだこともあったらしい。
話が逸れたが、「起承転結」と言えばまず杜甫のこの『絶句』だろう。
【王翰(おうかん)の「涼州詞」】
もう一つ絶句を紹介しておこう。「転」で世界がひっくり返る様が素晴らしい。唐の詩人王翰(おうかん)が詠んだ「涼州詞」である。
作者の王翰という詩人は───続きはオンラインサロンでご覧ください)