100枚の小説をどう書くか 04 『9時半までのシンデレラ』(宮下恵茉)は感動的な小説だ 山川健一

──この小説は素晴らしい。文学というものが持つ「建築物のような精緻な構造」と「エモーションの発露」という相反する二つの側面が高度なレベルで合体されている──

 

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「私」物語化計画 2023年10月27日

特別公開:100枚の小説をどう書くか 04 『9時半までのシンデレラ』(宮下恵茉)は感動的な小説だ 山川健一

課題図書に指定しておいた宮下恵茉さんの『9時半までのシンデレラ』は読みましたか。皆さんが、そして僕自身が学ぶべきものが、本書には、光り輝く妖精のように、川に降り注ぐ星々のように、散りばめられている。

 

宮下恵茉『9時半までのシンデレラ』

宮下恵茉『9時半までのシンデレラ』

 

先に結論を書くが、この小説は素晴らしい。文学というものが持つ「建築物のような精緻な構造」と「エモーションの発露」という相反する二つの側面が高度なレベルで合体されている。

二つの側面を合体させると何が生まれるのか?「感動」が生まれるのだ。

9時半までのシンデレラ』の主人公は中学3年生の少女達であり、それを読んでいる僕はジジイであるが、そんなことには関係なく魂を揺すぶられる。

それが文学の力であり、宮下恵茉という小説家の力なのである。

主人公が中学生であり、同年代の少女と少年、さらに彼らの親が登場人物なので、ストーリー・テリングには自ずと制約がある。小さな世界の小さな出来事が作品のパーツである。「どこにでもいる中学生の日常生活」というのがワールドモデルなので、妖精も比喩として出てくるだけだ。つまり神秘体験は存在しない。中学生にはロミオとジュリエットのようなめくるめく恋愛もちょっと無理だし、『カラマーゾフの兄弟』のような父親殺しも非現実的である。

僕らが──と言うか、普通の中学生が持つことが許されるごく普通のカードを組み合わせることによって、この作家はここまで感動的な小説を書いた。年上の同業者として、僕はまずそのことに感嘆する。

これは、物語化計画の会員の皆さん、さらに多くの作家志望の人達が学ばなければならないことである。身近な事柄だけを扱うことにより、如何に読む者の魂を揺さぶるか。

 

【構造分析してみよう】

まだ刊行されたばかりの作品なので、ネタバレは許されず、だから最低限の情報だけでこの作品の構造を分析したい。

作品の前提となる「欠落」とは何か。それは既にタイトルが暗示している。

9時半までのシンデレラ』。

この女子中学生は、9時半までに帰宅しなければならないのである。そんなふうに彼女に強制する人間がいる。それは母親である──続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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