リベラル・アーツとしての宇宙論と量子力学 1 アインシュタインの特殊相対性理論 山川健一
宇宙や物質のことを考えるのは、とどのつまり自分の人生について考えるってことなのだと僕は思う──
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「私」物語化計画 2022年7月22日
特別公開:リベラル・アーツとしての宇宙論と量子力学 2 宇宙はなぜ、存在するという面倒なことをするのか 山川健一
【なぜリンゴはいつも地球の中心へ向かうのか?】
17世紀から18世紀のはじめを生きたアイザック・ニュートンは、「リンゴが木から落ちるのを見て万有引力を発見した」ということになっている。
ニュートンの友人でありニュートンの初期の伝記作家であるウィリアム・ステュークリが1726年にニュートンから直接に聞いた話を回顧録として記録している。
ディナーの後で、暖かい日だったので、庭に出て数本のリンゴの木の木陰でお茶を飲んだ。ニュートンと私だけだった。色々の話の途中で、彼は、「昔、引力についての考えが浮かんできた時と全く同じ状況だ。」と言った。
彼は「なぜリンゴはいつも地面に向かって垂直に落ちるのか?」と自問した。腰を降ろして考えにふけっていたときに、たまたまリンゴが落ちた。「なぜリンゴは横に行ったり上に上がっていかず、いつも地球の中心へ向かうのか?」理由は疑いもなく、地球がリンゴを引き寄せているからだ。物質には引き寄せる力があるに違いない。地球にある物質の引く力の総量は地球の中心にあるのであって、地球の中心以外の所にはないに違いない。
だからこのリンゴは垂直に、地球の中心に向かって落ちるのだ。物質が物質を引き寄せるのであれば、その量は物質の量に比例するに違いない。それゆえ、地球がリンゴを引き寄せるように、リンゴもまた地球を引き寄せるのであると。
(MEMOIRS OF Sr. ISAAC NEWTONS life──Wikipedia)
実は、重力の存在は当時既に知られていた。
ニュートンは「太陽系の惑星の運動と、地球上の物が落下する現象が同じ力に由来すること」を発見したのである。つまり重力というのは単に地球上の物体を引きつける力ではなく、惑星や恒星を含めたすべての質量を有する物体間に存在する力だということを発見したのだった。
これを「万有引力」という。
ニュートンは造幣局長官だったのだが、こっそり錬金術の研究を行っていたのだそうだ。遺髪からは水銀が検出された。最後の錬金術師、なんて呼ぶ人もいる。彼は同時に神学者でもあった。
ニュートンの死後残された蔵書1,624冊のうち、数学・自然学・天文学関連の本は259冊で16パーセントに過ぎない。神学・哲学関連が518冊で32パーセントである。ニュートンは哲学者として聖書研究を行い、錬金術研究も重視していた。
だから万有引力も特別な、いわば神の力だと思われていたのだった。
アインシュタインによれば、万有引力はニュートン力学的な力でも、ましてや神の力でもなく、重力場という時空の歪みであるということになる。
重力の作用は光の速度で伝えられる。
重力が時空の歪みであるということは、光の軌道もまた重力によって曲がることを意味する。
ニュートンの万有引力の法則では、重力は質量を持った物体間の力だから、質量を持たない物質には万有引力は存在しない。
だが、アインシュタインは質量を持たない光の軌道も万有引力によって曲がると主張したのだった。
1919年に南アフリカで皆既日食があったときに、アインシュタインのこの仮説は証明された。太陽は月に隠されて空は暗くなり、昼間だというのに星が見えた。
このとき、本来なら太陽の後ろに隠れて見えないはずの星が、太陽の周辺で観測されたのである。
太陽の周囲の空間には、「時空の歪み」があったのだ。光の軌道が重力によって曲がっていたわけだ。
アインシュタインが示したのは、ニュートンが描いた機械的な宇宙ではなく、「熱いストーブの上に1分間手を載せている」のと「かわいい女の子と一緒に1時間座っている」のは相対的問題なのだという世界観に基づいた宇宙だった。
こうして、日常生活はニュートン力学でまかない、しかし本当はアインシュタインが正しいのだという僕らの現代生活がスタートしたわけだ。
その後の宇宙の誕生や進化などを研究する宇宙論は、アインシュタインがベースになってきた。
ところが──続きはオンラインサロンでご覧ください)