特別公開:ドストエフスキー講義 03 『罪と罰』──エッジの立ったそのキャラクターメイキングを見よ! 山川健一
わかりやすく売れる小説を長く書き続けなければならない。それが「デビュー する」ということだ。そういうことを、『罪と罰』から学んで欲しい──
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「私」物語化計画 2021年3月26日
特別公開:ドストエフスキー講義 03 『罪と罰』──エッジの立ったそのキャラクターメイキングを見よ! 山川健一
ドストエフスキーの小説は宗教的であり哲学的であり難解だという印象があるが、案外そうでもない。特に『罪と罰』はとてもよくできたエンターテインメントである。あるいは、エンターテインメントとしても読める重層的な小説である。
ドストエフスキーは『貧しき人々』でデビューしたときには絶賛され、だが逮捕、シベリア流刑、兵役と10年を無駄に過ごした。『罪と罰』は文学的にも商業的にも絶対に失敗が許されないというギリギリのところで執筆された。つまりこの長編は売れなければならなかった。
ここで際立つのが、極端までにエッジが立ったキャラクターメイキングである。翻訳で読むとよくわからないのだが、登場人物たちのネーミングがまずすごい。主人公のラスコーリニコフは斧という意味であり、マルメラードフはマーマレードという意味で、つまりマーマレードのように甘い男というネーミングなのである。
主な登場人物の名前の由来を紹介しておこう。
【『罪と罰』登場人物の名前の由来】
・ラスコーリニコフ=分離派(ラスコーリニキ)=裁ち切る=斧
主人公の姓であるラスコーリニコフとは、ロシア正教の異端である分離派(ラスコーリニキ)が由来である。老婆の頭を斧で「叩き割った」事で人間社会から裁ち切られてしまった主人公の立場を象徴するような名前だ。
この主人公のフルネームは「ロジオン・ロマーヌイチ・ラスコーリニコフ」だが、江川卓説によると「ロジオンとは薔薇という意味だが、一文字違いのイロジオン(英雄)のもじり」だそうだ。
ロジオン=イロジオン=英雄=救世主=弥勒ということになる。
- 恋人のソーニャ=英知
- ラズーミヒン=智恵者
- ルージン=溜水野郎
- マルメラードフ=マーマレードのような甘い男
さて、いかがだろうか。
英雄的な斧男が登場して老婆の頭を叩き割り、マーマレードのように甘い男と酒を飲み、英知少女と出会い、改心する──というストーリーなのである。
ロシア語で読んだ人たちは、登場人物たちの名前を見れば、大体どんなキャラなのか見当がつくのだろう。溜水野郎が善良な男のはずがないのである。
とてつもなくわかりやすいキャラ設定であり、ネーミングである。これを僕らも見習うべきだと思う。小説とは、わかりやすくなければならないのだ。そうでないと売れないからだ。
これからデビューする方々はあまり気にしないかもしれないが、小説は売れないと意味がないのだ。少し世俗的な、具体的な話をしよう。たとえば───続きはオンラインサロンでご覧ください)