特別公開:特別編・長い小説を書くために1 ジュネットの焦点化から学ぶ 山川健一

年齢別による創作技法について述べる。とりわけ、年長者へのアドバイスを行いたいと思う──

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「私」物語化計画 2020年9月25日

特別公開:特別編・長い小説を書くために1 ジュネットの焦点化から学ぶ 山川健一

今回はキャラクターメイキングをお休みし、緊急特別編として、年齢別による創作技法について述べる。とりわけ、年長者へのアドバイスを行いたいと思う。

 

【若さと経験】

小説を書き始めるのに、遅すぎるという事はない。絶対にない。ただし、年齢的な特徴を自分なりに対象化しておく必要はある。

青春期の大きな特徴。

それは存在しているだけで「理由のない悲しみ」や「痛み」を内包しているということだ。これは創作上の大きな強みである。

しかし弱点として、「経験」や「喪失感」が不足していることが挙げられるだろう。

たとえばミステリー小説を書こうとして、冒頭に殺人事件を配置したとする。人にもよるだろうが、高校生や大学生では警察組織に関する知識が乏しい。それどころか、組織という物の構造を知らない。殺された人物の周囲で、どれだけ多くの人が「喪失感」を抱えなければいけないのかということが理解できない。

これは創作上の、大きな弱点である。

年長者は、組織という物の歪みや矛盾をいやと言うほど知っている。警察組織についても、おおまかな事は理解できている。

親しい人たちを何人も弔ってきているので、「喪失感」を肉体の感覚として理解できる。言うまでもなく、これは創作上の利点である。

そうしてみると、青春期にある人たちと、人生の経験を経てきた人たちが、同じ素材で同じような小説に挑むのは無謀と言うものだ。

さらに問題なのは、年齢に関する感覚は個人差が大きいということだ。30歳の男女がいたとして、彼らが自分を「青春期」であると認識するのか、「経験豊かな世代」であると認識するのか、個人差が大きい。

しかも、年齢は刻々と変化していく。

長らく病と闘いながら生きてきた人と、キャリアアップを重ねながら今、大きなチャンスをつかもうとしている人では、捉え方は大きく異なるだろう。

年齢には性差もある。

同じ40歳でも、男女によって感じ方には隔たりがあるだろう。かねてから「男はいつまでも子供で女性は若くても大人だ」と言われてきた。端的に言って、これは旧世代の誤った認識である。アンシャン・レジームに属する男尊女卑的な価値観だと言っても良い。

僕らの住む世界はそんなにシンプルではない。

現にこの『「私」物語化計画』には、越水利江子さんをはじめ少女性を失わない女性の書き手がたくさんいるではないか。

ただし、性別により年齢の受け取り方が異なるのは事実だろう。

 

【露になった個人差】

これにさらに、個人差というものが加わる。

僕らは今それを、嫌と言うほど感じさせられているのではないだろうか。

COVID-19の問題が、それを浮き彫りにしたのだ。

僕の親しい友人たちにも、2つの相反する感じ方がある。

 

《リモートワークにも慣れ、単身者として生きていくことを改めて覚悟した。しかし老いた両親にも長らく会っておらず、親しい友人達と酒を酌み交わすこともない。何人かとはもう、生涯会うことができないのかもなぁ》

《コロナが流行したら不思議なことにかえって縁が遠くなってた人から連絡を貰うことが多くて、学生の時ライブに通ってたアーチストに会ったり、自分には失うものもないので会いたい人には会うことにしている。刺激をもらって元気になれる》

 

正反対の感じ方だが、そして僕の感受性は前者に所属するのだが、どちらもよく理解はできる。

2011年の原発事故とCOVID-19は共に世界的な危機を僕らにもたらしたが、状況が少し違うだろうと僕は思っている。

原発事故は皆が「これは本当にまずい」と感じることができて、意思の統一がしやすかった。

個人VS政治権力という構造が見えやすかった。

翻ってCOVID-19の場合は、その人の住んでいる地方、年齢、性別、家族構成などによって立場が大きく異なる。その人がこれまで生きてきたことによって成り立っている思想も、千差万別だ。

したがって、COVID-19が危機であることに間違いは無いのだが、その対応をたとえ親しい相手にでも、強制できない状況が生まれている。

僕自身は個人的に、これは末期的な危機だと思っていて、基本的に人に会うことを可能な限り避けている。もちろんこの連休中もどこにも出かけず、部屋にこもっていた。

しかしそれを、親しい友人・知人たちに強制はできないのだろうと思う。ただ自分なりの結論として、この状況下でも「積極的に動く」という友人たちとは、そう簡単には会えないなと思っている。

それで、何人かの大切な人たちと別れることになったとしても、それは仕方がないことだと自分に言い聞かせている。

 

【ジュネットの焦点化】

物語論の世界にジュネットという人がいる。

彼はtemps(時制)、mode(法)、voix(態)という文法用語を参考に物語を巡る論理を構築した。

たとえば時制に関しては──続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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