特別公開:キャラクターメイキング編 人気アニメ『Dr. STONE』の助言者達2 山川健一
物語におけるキャラクター、とりわけ「助言者」達は、引き算で構想しなければならない──
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「私」物語化計画 2020年9月18日
特別公開:キャラクターメイキング編 人気アニメ『Dr. STONE』を解剖する 山川健一
先週はお休みをいただき、すみませんでした。この時間を会員の皆さんの原稿を読むことに充てました。このところ立て続けに会員の方々から原稿が送られてきて、嬉しい悲鳴をあげています。
推薦作が充実してきたので、事務局が一覧にまとめてくれました。「物語化計画文庫」という趣きです。嬉しいですね。
【物語化計画文庫】
これらの作品を見ると、それぞれ、短編ならクオリティの高い作品を書けるレベルに達している。
この質を保ったまま100枚を超える作品を書くのが次の目標です。100枚、300枚と小説が長くなっていったときに、その世界の全体と細部をコントロールできるかどうか。これが大切です。
そのために大事なのが「助言者」の存在なのだ。
最近の推薦作、Hさん、Eさん、Kさんの各作品はそれぞれ全く異なるタイプの短編だが、立ち位置は共通している。
短編なので「助言者」が不在なのである。
主要登場人物の2人か3人で世界が成立している。短編だからこれで構わないが、これを長編化していくときには、「助言者」をどう創るのかということを考えなければならない。
ここでちょっと脱線する。
3人とも若いのだが、自分の鉱脈を掘っていくときに参考にする作品がまだ少ないのだろうと僕は勝手に推察する。
Hさんが書いた世界は伝統的な日本文学だが、今後もこうした世界を書いていくつもりなら川端康成や谷崎潤一郎だけではなく、和歌や『源氏物語』にまで手を伸ばさなければならないだろう。
レトリックの上達には目を見張るものがあるが、常に吸収していないと泉は枯渇してしまいます。
日本文学は美意識のリレーによって成立している。そしてこの国においては、思想や宗教以上に文学が縦糸として各時代の文化をつないできた。それを知ることが何よりも大切です。
それを実現すれば、次にライトノベルやファンタジーに挑戦する時にも役に立つはずだ。
Eさんの作品は、コメント欄の【講評】で書いたが、カインとアベルの物語を彷彿とさせる。
兄のカインは弟のアベルを野原に誘い出して殺害する。これが人類最初の殺人である。
Eさんは芸工大時代の教え子なので、僕はリベラルアーツの一環として「世界宗教史」の講義もしたのだが、覚えてますか?
とにかく『旧約聖書』は必須です。
さらに、宗教をベースにした海外の小説を片っ端から読む必要がある。まず、スタインベックの『二十日鼠と人間』は読むように。もちろん、文芸学科の授業で扱ったドストエフスキーの『罪と罰』だけではなく、なるべく早く『カラマーゾフの兄弟』も読むこと。
こうした本に、今のあなたが必要としている言葉がたっぷり眠っている。
凍てつく福島の冬をペテルブルグのように書いてみろ。
Kさんは上智大学で歴史を学んだ方で、文学書にも多く親しんでいるようだが、攻めの読書をしなければならない。
教養としての読書、趣味としての美学ではなく、現代と近代をつないだ小説を自分自身が書くために、具体的にどの作品が参考になるのかを必死で探す必要があるだろうと思う。
ビリー・アイリッシュの曲のタイトルを持って来たのはそうした試みの成果です。
自分が書きたいのはこの世の地獄なのか、あるいは生を超えた魂の行き着く場所なのか。ひたむきに生きる者に菩薩の救いはあるのか──そういう問いに対する解答のモデルを探すべきです。
この件はまだ本人に言ってなかったが、ホラー小説にその解答があるような気が僕はしています。時代物の怪綺談やファンタジーでは「お話」になってしまいがちなので、ホラーを書けばあなたの中で近代以前と現代がつながるのでは?
3人の小説について書いたが、他の皆さんも同じだ。小説や詩を書くという事は、深い海に潜って真珠をとってくるような作業である。
これは詩人のリルケの言葉だ。リルケが、どこかでこんな意味のことを言っている。記憶に頼って書くので正確ではないのだが。
「詩を書くことは、深い海に潜って真珠をとってくるようなものだ。深く潜れば潜るほど、大粒の美しい真珠を手に入れることができる。しかし、あまりにも深く潜りすぎると命を落とすことになる」
真珠というのは詩人らしいロマンティックな表現だが、僕に言わせれば金鉱を掘るようなものである。
この鉱脈がどこにあるのか。
それを知るためにこそリベラルアーツの学習で広い世界を知り、読書の体験で物語を知るのです。
【助言者の定義】
助言者の話に戻る。
Iさんからこんなコメントが寄せられた。
《こんばんは。『Dr. STONE』の登場人物について一つ質問させてください。
コハクは「助言者」じゃなくて「認識者」でしたよね。よって「『助言者』はマイナスつまり引き算で作れ」という考えからははずれると思うのですが、「認識者」が「助言者」を兼ねてもいいのでしょうか?
まあ、「認識者」を引き算で作ってもいいとは思うんですけど。》
助言者にはそれぞれのレベルがある。
恋人が失踪し、彼女を探す男の物語を書くとする。
彼女が最後にいたと思われる地方の町へ行き、駅前に一軒しかない喫茶店に入る。マスターに顔写真を見せて聞いてみる。
「この店に来たことありませんか?」
「一度お見えになったことがあります。なんかのパンフレット、そうだ声優の専門学校のパンフレットを見ていましたよ」
この言葉が真実だとすれば、喫茶店のマスターは軽度の助言者である。しかし、もしもこの男が彼女の愛人だとしたら、あるいは実は彼女の父親だとしたら、非常に重要な助言者だということになる。
前にこんな例をあげたことがあるが、覚えていますか。
ある夜、主人公は不可解な部分のある恋人を──続きはオンラインサロンでご覧ください)