特別公開:いよいよ旅立ちだ! 3「橋守を倒してルビコン川を渡る」 山川健一

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『自分の内側の欲求を欲望化し、大きな空っぽのプールのような欠落を発見し、「外圧」によって否応なく僕らの主人公は旅立った。目的は、この空っぽのプールを豊かな水で満たすためだ。』

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「私」物語化計画 2019年2月15日

特別公開:いよいよ旅立ちだ! 3 「橋守を倒してルビコン川を渡る」 山川健一

自分の内側の欲求を欲望化し、大きな空っぽのプールのような欠落を発見し、「外圧」によって否応なく僕らの主人公は旅立った。

目的は、この空っぽのプールを豊かな水で満たすためだ。

ここまでが、前回までの話なのだが、よろしいでしょうか? よくわからないという方は、大切な話なのでそのままにせずに、どこがはっきりしないのか質問してください。なるべく丁寧にお答えしますから。

さて、旅立ったといっても、まだ彼はまだそう遠くへ行けたわけではない。たとえて言うならば、まだ主人公の家がある村の中で、振り返ればぽつんと自分の家が見えたりする。

そういう距離感だ。

完全に未知の世界、異世界、新しい世界へ到達したわけではない。

次に主人公が体験しなければならないのは、「小鬼との戦い」だ。小鬼と書いたのは、この相手がそれほど強い相手ではないことを表現したいからだ。

僕らの主人公は村から外の世界へ続く道を歩いて行く。村のはずれに川があり、橋がかかっている。この橋の向こうには荒野が広がり、物の怪の類や、飢えた狼がいるかもしれない。

この橋に1匹の小鬼がいる。

小鬼は外の世界から物の怪の類が入ってくるのを防ぎ、同時に、村という共同体から誰一人として出奔者が出ないよう、守っているのだ。

いわば「橋守」である。

橋守とは文字通り橋を守る人、橋の番人のことだ。江戸時代から明治の中頃、橋の警備や清掃などの任にあたった人のことを橋番と呼んだのだそうだ。

いつものように話がそれるが、泉鏡花が初めて口語で書いた「化鳥」という短編があるが、この作品の主人公の母親が橋番だった。

少年の廉はある日、川へ落ちて溺れそうになり、気がつくと母様のお膝に抱かれていた。廉が「助けてくれたのは誰です?」と問うと、母様は「五色の翼がある美しい姉さんよ」と答えた。廉はその日から姉さんを探す。町にはいない。梅林にも桜山にも桃谷にも、菖蒲の池にもいない。
しだいに廉は森に迷い込んでしまう。
森はすっかり暗くなり、廉は家に帰ろうと思うが、突然自分が鳥になったかのような恐怖を覚える。そのとき、心配して探しにきてくれた母様が、うしろからしっかりと抱いてくれた。
美しい姉さんは母様だったのだろうか? しかし母様に五色の翼はない。ほかにそんな人がいるのかもしれない。けれど、もういい。母様がいらっしゃるから──という甘酸っぱい小説だ。

鏡花の作品の橋番もそうだが、「橋守」は決して強大な存在ではなく、むしろ弱々しい存在である。しかしこの「橋守」が……(特別公開はここまで、続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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