小説を書くために宇宙を見上げよう 06(最終回) 科学知を生かした小説、実践編 山川健一
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2025年11月21日
特別公開:小説を書くために宇宙を見上げよう 06(最終回) 科学知を生かした小説、実践編 山川健一
【瀬名秀明さんの世界】
ダーウィンやユングの科学知を小説に生かすことは可能だが、それをいかにエンターテインメントに落とし込むかということが大切だ──という話の続きである。
これは進化論や精神分析に限らず、ビジネスの世界のコーチングや、しげさんの『家族の舟 〜亜希のペアレント・トレーニング〜』におけるペアレント・トレーニングもそうだ。
精神科医でもある藤村邦さんが精神医学の最先端の知見を生かした「沈黙は語る」という中編の第一稿を書き終えたところだが、この作品にしてもいかにエンターテインメントに仕上げるかということが大切なのだ。若松幸太郎は仏教を素材にしたライトノベルを書いているが、これも同様である。
僕は一時期瀬名秀明さんと付き合いがあった。『パラサイト・イヴ』で第2回日本ホラー小説大賞を受賞し、作家デビューを果たした作家だ。
この作品は、ミトコンドリアが人間の細胞を乗っ取るというSFホラーで、ベストセラーとなり、映画化(1997年)やゲーム化(スクウェア・エニックス)もされた。瀬名さんは東北大学で薬学を専攻し、博士課程在学中に執筆を開始した。だから荒唐無稽な話のようでいながら、科学的なバックグラウンドが作品のリアリティを支えている。
多くの作品があるが、僕がいちばん好きなのは『BRAIN VALLEY ブレイン・ヴァレー』である。
脳科学の最先端の知識を基に、人間の意識、神の起源、進化の可能性をテーマに描いている。脳科学、霊長類学、人工知能などの科学知識が盛り込まれ、体外離脱や臨死体験、百匹目の猿なども扱っている。僕も興味がある分野なので、自動車雑誌の『NAVI』で対談をお願いしたら快く引き受けてくれたのだ。
この『BRAIN VALLEY』は、専門用語が頻出するが難解さを狙ったのではなく、瀬名さんによれば、「『ジュラシックパーク』のようにエンターテインメントという乗り物に乗せて科学の面白さを伝えたいと思った」とのこと。
Wikipediaに掲載されているあらすじを紹介する。
あらすじ
あるテレビ局のロケーション撮影事故からプロローグが始まるが、これは後々の伏線になっている。
主人公の脳科学者孝岡護弘はある神経伝達物質の受容体(レセプター)を特定したため「ブレインテック」という研究所に主任部長として招待される。ブレインテックは山の谷間に位置していたためシリコンヴァレーにちなんで「ブレインヴァレー」と呼ばれていた。この研究所はなぜか辺鄙な船笠村に充実した設備を構えていて、所長の北川嘉朗はあまりにも掴み所がなく、「向こう側」という意味不明の言葉に孝岡は引っかかりを覚えるが…? そして「オメガ・プロジェクト」とは…?
壮大な話で、分厚い本の上下巻である。
その頃僕は『ジーンリッチの復讐』というSFを刊行したばかりで、瀬名さんはそれを読んでくれていて、面白かったと誉めてくれた。
どこかの川辺で対談したのだが、冬で寒くて、瀬名さんがセーターだけだったので、
「よかったらこれ着てください」と、僕は自分が着ていた鮮やかなイエローのダウンを脱いで貸してあげた。
「ありがとうございます」と瀬名さんは言ってそのダウンを着た。
やがて撮影が始まったのだが、彼はダウンを着たままである。GAPの安いダウンだし派手な黄色だし、これでグラビアに登場してもいいのかなと思ったのだが、瀬名さんはそういうことには頓着しない方なのであった。
ちなみに、東北芸術工科大学に文芸学科を設立した時に教員を集めなくてはならず、すぐに瀬名秀明さんの顔が思い浮かんだのだが、既に他大学で理科系の教授になっていたので諦めた。
素晴らしい方だった。科学的な小説の先駆者である。また会いたいものだ。
【僕が2作だけ書いたSF、『ジーンリッチの復讐』と『真夏のニール』】
自分の小説だと勝手がわかっているので、『ジーンリッチの復讐』の執筆の経緯をお話ししよう。
Amazonの概要を引用する。
2020年の没落した日本を舞台とするサイエンスフィクション。厚生労働省、大学病院、製薬会社の人間が突然激しい発作に襲われ、廃人と化す不可解な事件が起こる。被害者は皆、ある電子メールを開いた瞬間、パソコンから放たれた強い光線を受けていた。その時、18歳でゲーム会社を経営する日比野裕之のもとに、リリカというハンドルネームを持つ女性から「あなたを買いたい」と連絡が入る。これが物語の始まりだ。彼は有能な遺伝子研究家の遺伝子から作られた人工生命体だ。2020年には彼のような「ジーンリッチ」とそうでない人間「ナチュラル」が存在し、彼らは共存か淘汰か、という選択に直面する。医療の発展やITを進化論にあてはめて解釈する独特な世界が描かれた傑作小説。
まず、経済格差なんてものを超えた遺伝子の格差ってものが今後人間を支配することになりそうだなと僕は考えたのだ──続きはオンラインサロンでご覧ください)
山川健一
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山川健一/今井昭彦/葦沢かもめ
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インプレス https://book.impress.co.jp/books/1124101059
