小説を書くために宇宙を見上げよう 03 宇宙論や量子力学は僕らの「死」の概念を変える 山川健一
──なぜ、こんなにやりたい夜があるんだろうか──という問いの解答を探すために、僕は進化論に向かったのだ
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2025年10月24日
特別公開:小説を書くために宇宙を見上げよう 03 宇宙論や量子力学は僕らの「死」の概念を変える 山川健一
【なぜ、こんなにやりたい夜があるんだろうか】
文学というものは、この広い世界の全てを対象とするものだ。特に小説は雑食性で、様々なものを飲み込んでしまう。
不定形で、膨大な世界の中で長く生きてくると、時に「私」を見失いそうになってしまう。誤解を恐れずに言えば、太宰治も谷崎潤一郎もそのような混乱のただなかで死んでいったのだと思う。
この件については、来週以降書く。
そこまで大層な事情でなくても、僕も時々文学的な混乱に襲われそうになった。それでもこれまで深い淵に引き摺り込まれなかったのは──今後はわからないが──ロックがあったからだと感謝している。
ロックでなくても、不定形な文学の徒を長くやるためには、文学以外の論理的な体系から多くのものを吸収する必要があるのだと僕は思っている。
いろいろな論理体系があるが、正直に告白すれば宇宙論とダーウィンの進化論に僕はかなり頼ってきた。どちらもそんなに専門的に勉強したわけではなく、好奇心から一般書を読み漁る程度である。ま、趣味のレベルだ。
宇宙論に惹かれる理由は単純で、その理由は「死」について想いを巡らせるからだ。親しい人が亡くなると、僕らは星空を見上げるのではないだろうか? あそこに彼の魂は行ったのだと漠然と感じる。宇宙には誰かが死んだという事実を癒す力がある。その秘密を解き明かしたいという願望が僕を宇宙論に向かわせる。
今回の連載の最後ではダーウィンを取り上げる予定だが、これは性欲の秘密を探りたいと思ったからだ。
かつて『甘い蜜』というポルノグラフィを幻冬舎文庫で出したことがある。いろいろなタイプの作家がいるが、僕は大雑把な方で、装丁も細かくはチェックしないし、帯のコピーなども出版社に任せきりである。
さて、その『甘い蜜』の見本が届いた。楽しみに文庫本を取り出してみて唖然とした。
帯のヘッドコピーはこうだ。
〈なぜ、こんなにやりたい夜があるんだろうか。〉
そして小さな活字でこう記されていた。
〈欲望と衝動につき動かされ、快楽に溺れていく男女の姿をとどめる究極の官能小説。五人のガールフレンドと過ごす悦楽の夜を描いた表題作など七編を収録。〉
僕は幻冬舎の見城徹氏に電話した。
「見本届いたけどさ、あの帯のコピーを書いたの誰?」
「俺だよ! どうだ、いいだろう?」
「俺、恥ずかしくて街を歩けないじゃん…」
見城さんはさも可笑しいといったふうに笑うばかりであった。
しかし、仰る通りかもしれない。
なぜ、こんなにやりたい夜があるんだろうか──という問いの解答を探すために、僕は進化論に向かったのだ────続きはオンラインサロンでご覧ください)
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