晴れた日には永遠が見える、雨が降ったら小説を書こう 01 書く習慣の獲得 山川健一
──晴れた日に見える永遠は「詩」であり、それを雨の日に散文で対象化したのが小説である──
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2025年8月22日
特別公開:晴れた日には永遠が見える、雨が降ったら小説を書こう 01 書く習慣の獲得 山川健一
【信仰としての文学】
お盆休みに入る前にお知らせしたように、今週からは新連載を始めます。ナタリー・ゴールドバーグの『魂の文章術―書くことから始めよう』(原題:Writing Down the Bones: Freeing the Writer Within)に触発されて、「書く」ことそのものを見直したいと思う。『魂の文章術』は、ライティングを通じて自己表現と創造性を解放するための指南書であり、「どうしたら文章をうまく書けるようになるか」とか、「小説を書くにはどうしたら良いか」「ストーリーを考えるにはどうしたら良いのか」などということは1行も書いてない。
自分自身が「書く」ことが大切なのであり、それはナタリーが長年にわたってやってきた禅の修行に近く、さらに言うならば、ほとんど信仰そのものである。
もっとも本質的な言語は「祈り」であると僕は思う。
僕は彼女のそんな姿勢に惹かれる。
自分自身にもそんな側面があることに、実はかなり前から僕は気づいていた。
山川健一はセックスとドラッグとロックンロール──つまりアンダーグラウンドカルチャーの中からデビューしたと当時は思われていて、僕もそんなステレオタイプのイメージを本を売るために利用したのだった。だが、実は僕の仕事はきわめて日本文学に近しい場所で展開されていた。
そんな僕の姿勢を、年下の批評家や小説家で言い当てた人達がいた。「ヤマケンは新しい小説でデビューしたように見えたけど、今になって振り返ればオーソドックスな日本文学だった。だから古くならないんだよな」と言ったのは石川忠司で、「文学ってものを強く信じている人だ」と言ったのが素樹文生である。
そうそう、僕は言葉の力を信じている。文学ってものを信頼している。もっとはっきり言えば、日本文学を信仰している。だからこそ、『「私」物語化計画』をやっている。
およそ宗教というものに無縁なのは、信仰の対象が文学だからだ。空海の真言密教には敬意を持っていて影響もされ、『「空海」の向こう側へ』という新書も書いたが、真言密教は──もっと言えば仏教は、宗教ではないと思っている。あれは世界観であり、世界をいかに見るかという姿勢とその実践なのだと思う。
僕の信仰の対象は日本文学であり、日本語である。そいつには、実はセックスとドラッグとロックンロールも含まれているのだ──というのが僕の意見である。
だから書こう。
書くことは生きることであり、内なる信仰を持続することだ。書くことによって僕らは癒される。精神が透明性を獲得し、衰えていくエゴを支えることができる。
この年齢になってみて、初めてわかることがある。
小説を書いて評価され本が売れてポルシェを買う。そんなことは、持続する信仰の前ではどうでもいいことだ。いや、どうでもいいことではないかもしれないが、瑣末なことだ。明日死ぬとする。その時に僕らの中で価値があるものは、書き記してきた言葉でしかない。心からそう思う。
もちろん、書くことには恐怖が伴う。
こんなことを書いたら後ろ指を差されるのではないかとか、そうでなくても下手だと笑われやしないかとか、二の足を踏んでしまうこともある。
72歳にもなって性や恋愛のことを書いたりするのは世間体が悪いよな、などと僕だって躊躇することもある。つまりそういうのが書くことに伴う恐怖である。
そんな時には────続きはオンラインサロンでご覧ください)
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