冬の特別配信:スピカと月 3/3 山川健一

ブライアンがジャニスを守ってあげてるみたいに、おれも君を守ってあげることができると思う──

 

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「私」物語化計画 2021年12月24日

冬の特別配信:山川健一『スピカと月』(3/3)

運営事務局より〜年末を迎えるにあたり、12月10日、17日、24日の3週にわたり、山川健一の小説を一部掲載いたします。

 

冬の特別配信
スピカと月  3/3
山川健一

たとえば北海道が広い海に浮かんでいるように、地球はビロードのような闇にぽっかりと浮かんでいる。ぼくは、成層圏の遥か上空から、つまり宇宙と呼ばれる空間からこの美しい珊瑚礁の海を見下ろした写真を思い出した。

「おれ達は、もう壊れてしまった人間なんだよ。魔界のザクロの実を、たっぷり食べてしまったのさ」

ぼくは未希子にそう言った。

未希子は答えない。唇を閉じ、海のほうを眺めている。

ぼくは、つづけて言う。

「仕事で必要だったから調べ始めたんだけど、地球の生態系はほんとうに加速度的に狂ってきているんだ。それを止めることは、もう誰にもできっこないんだ。今最大の問題は人口の増加で、こうなってくるともう戦争を否定することさえできないんだからね」

しばらくすると、未希子が言った。

「あなたは、いつでもそうね。いつでもいろいろなことを考えて……。でも、自分のことだけは考えたことがないのよ」

そうかもしれないな、とぼくは思った。彼女はあの七〇年代の選択のことを言っているのだろう。彼女はぼくと結婚したいと言ったのに、ぼくはそうしたくないと言った。彼女は泣いて哀願したのに、ぼくは彼女を突き放したのだ。ぼくが黙っていると、未希子が言った。

「いたずらに悲観的になるのはよくないって、わたし、海を見ていると思うの。わたしだって、壊れてしまっているのかもしれないわ。乙女座の女神みたいにね。でも、そんなこと、ぜんぜん気にしないことにしてるの」

ぼくは、風の中でうなずいた。

「君は、あの頃と少しも変わらないんだね」

ゆっくり流れる運河が、すぐ目の前に広がっている。静かな声で、未希子が言った。

「ねえ、見て。きれいな町でしょう。わたしはこの町が好きよ。だからあなたを誘ったの。わたしは、この地球に好きなものがたくさんあるわ。きっと地球は、それ自体がとても強い生命力を持った生き物なのよ。私、水を見ているとそんなふうに思うの。いつか人間が誰もいなくなってしまったとしても、この星はきっと今と同じようにきれいで、厳かなままなのよ。それで、いいじゃないの」

ぼくは、肩の隣りの彼女の名前のことを考えていた。

未来の希望。

人生の残りの時間を、彼女の希望に賭けてみようかと、ぼくはふと思った──続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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