『ソフィーの世界』で学ぶ哲学とファンタジー 5 賢人・ソクラテスの登場 山川健一

金や評判や栄誉のためではなく、この国家が瓦解したクソみたいな日本の片隅で正しいことを行うために、小説を書くのである──

 

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「私」物語化計画 2021年10月1日

特別公開:『ソフィーの世界』で学ぶ哲学とファンタジー 5 賢人・ソクラテスの登場 山川健一

【賢人・ソクラテスが登場してギリシア哲学は一変する】

自然哲学の次にギリシアに登場したのが、ソクラテスとプラトンとアリストテレスだ。

 

初代「アカデメイア派」ソクラテス

二代「アカデメイア派」プラトン

三代「アカデメイア派」アリストテレス

 

ちなみに、アカデメイアは今のアカデミーの語源だ。

ソクラテスに切り込む前に、『ソフィーの世界』のストーリーを見てみよう。

週末、母親が買い物に出かけた後、ソフィーはほら穴に行く。すると、哲学講座の手紙を入れてある缶のそばに小さな封筒がおいてあった。驚きながらソフィーは手紙を読んだ。

手紙は哲学の先生からソフィーの手紙への返信だった。

これから哲学講座の手紙は哲学の先生のちいさなお使いがソフィーの隠れ家であるほら穴に直接届けること、ソフィーからコンタクトを取りたいときの方法、そしていつか会いましょうと書いてあった。

手紙をひっくりかえすと裏側にも何行か書いてある。

 

「自然な羞恥心はあるか?」

「もっともかしこい人は、自分が知らないということを知っている人たちだ。」

「正しい認識は自分のなかからやってくる。」

「何が正しいかを知っている人は、正しいことをする。」

 

簡単な言葉で述べられているが、どれも大切なソクラテスの哲学である。

ソフィーにはすでに白い封筒に入ってくる短い文が、次に受け取る大きな封筒の予習問題みたいなものだということがわかっていた。

ソフィーは問いについて考えながら、ほら穴で大きな茶封筒を持ってくるはずのお使いを待つことにする。しばらくすると大きなラブラドル犬がほら穴に押し入ってきて、くわえていた大きな茶封筒をソフィーの足元に置いて森に去っていった。

ソフィーは目の前で届けられた封筒をあけて読み始めた。

手紙は、第一部の自然哲学を終え、第二部に入っていくことになる。ここから古代ギリシア最大の哲学者たち、ソクラテス、プラトン、アリストテレスを見ていくことになるわけだ。

自然哲学者たちはソクラテスよりも前の時代に生きたので、ソクラテス以前の哲学者たちと呼ばれている。時代のことだけでなく、哲学はソクラテスのところで大きく線引きされ、哲学者の研究テーマもがらりと変わるのである。

紀元前およそ450年頃、アテナイはギリシア文化の中心だった。

ソクラテスはアテナイ生まれの最初の哲学者である。アテナイでは民主主義が発展していった。

ソフィスト達は、人間は、自然にまつわる謎の答えは見つけられないのではないかと懐疑主義を唱えた。

プロタゴラスは、神はいるか、いないか自分には分からないと不可知論を唱えた。

ソクラテスは、幾つかの基準は本当に絶対で、いつでもどこでもあてはまる、と唱えた。しかしソクラテスは、人を教え導こうとはしなかった。ソクラテスは、本当の知は、自分の中からくるもので、自分の中から生まれた知だけが、本当の理解だと唱えた。

ソクラテスは自分の良心と真理を命より大切だと考えていた。そしてソクラテスは、正と不正を区別する力は理性にあって社会にはないと信じていたのである。これはきわめて現代的なテーマでもあると僕は思う。

ソクラテスは生きていた時にも亡くなった後も、とても謎めいた人である。ソクラテスは彼の考えたことを全く書き残していないため、彼の弟子たちが書き残したものに頼らざるを得ず、僕らに影響を与えてきたのは、彼の弟子プラトンによるソクラテス像なのである。

これには理由がある。

ソクラテスは生涯を通じて、一冊の本も書かなかったのだが、その理由については諸説ある。ただ考えられるのは──続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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