特別公開:工学的構築物としての小説3 小説作りの魔法の概念「関係の絶対性」 山川健一

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『これから書く長い小説の主人公について考えるのは楽しく、しかし難しい。年齢や性別、趣味、何よりも主人公が世界というものにどんな風に関わっていくのかを考えなければならない。

そんな時、僕らは往々にして間違いを犯す。』

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「私」物語化計画 2019年5月10日

特別公開:工学的構築物としての小説3 小説作りの魔法の概念「関係の絶対性」 山川健一

あなたが絶海の孤島で生まれ、1人で育ったと仮定しよう。あなたは母語も父語も学べなかったので、つまり言葉を習得できなかったので「私」を形成することができていない状況である。

母語と父語と表現の言語については初期の講義で触れたので、忘れてしまった人は読み返してみてください。

島でたった1人──という仮定はよくある荒唐無稽な思考実験だが、この実験から僕らが取り出せることは2つある。1つは、人間は言語によって「私」を形成するのだということ。もう1つは、母なり父なり友人なり、誰か他の人間がいなければ「私」は存在しないということだ。

別の例え話をしよう。

あなたが3人の異性と同時に交際しているという、あまりにも幸福で、だが同時にあまりにも悲惨な例え話だ。

あなたは女性で、ABC3人の男性としばしばデートしているとする。

Aは優しい男で、彼が怒ったところを見たことがない。どんな無理難題をふっかけても、受け入れてくれる。あなたは彼の紳士性に感謝しながらも、時々は苛々し、つい居丈高な態度で接してしまう。相手が待ち合わせに10分でも遅れようものなら、ピンヒールで踏みつけ、

「今度遅れたら承知しないからね」などと言う。

Bは才能豊かな男だが乱暴なところがあり、孤独を感じさせ、投げやりな態度であなたに接してくる。このまま別れても俺は別に構わないよ、という態度である。彼を引き止めたいあなたは、懇願し泣いてすがる弱い女になってしまう。

Cは学生時代のクラスメートで、ノートを貸したり借りたりした間柄である。お金も地位も見栄もなかったお互いを知り尽くしている。今は恋人同士の関係だが、友情の延長のようなフランクな間柄である。彼の遅刻を罵ったり、彼に泣いてすがったりなんてことは多分今後も決してないだろう。

3人の男の前で別の自分になってしまう「私」にあなたは時々戸惑う。

私って、三重人格?

そうではないのだ。

あなたとAとの関係、あなたとBとの関係、あなたとCとの関係の方こそがあなたにとっての「私」を決定しているのである。相手にとっても事情は同じだ。

キャラクター・メイキングの難しさは、実はここにあるのだろうと僕は思っている。しかし同時に、ここに注目すればプロット作りは容易になるはずだ。

長年慣れ親しんだはずで、今や確かに見える「私」とは、じつは不確かなものに過ぎない。誰かとの関係があなたを作っている。誰かとの関係の方があなたという存在に先行するのだ。関係性こそが絶対なのだ。

極端な言い方かもしれないが「私」なんてものは存在しないのだ。誰かとの関係があるだけなのである。まずそれを思い知ることから、新しい小説は構想されなければならない。

そして「自分探しの旅」とは、成長の過程における他者との関係を検証していくことに他ならないのである。

これを「関係の絶対性」と呼ぶことにしよう。

小説を書く時、いろいろな手順がある。たとえばこんな順番がある。

・ワールドモデルの設定(時代設定や作品のカテゴリー選択)

・キャラクター・メイキング(登場人物の特徴や性格の決定)

・プロットの構築(話の筋書きや因果関係)

ワールドモデルの設定までは簡単だが、それ以降が厄介である。キャラを設定しつつ、ストーリーの因果関係になるプロットを作っていかなければならない。その時に有効なのが「関係の絶対性」という魔法の概念なのである。

「関係の絶対性」は小説作りの手順すべてのバックグラウンドで発動している概念である。

小説を構想するこれらの順番は自分のやりやすいように変更することも可能だし、行ったり来たりするのも可。さらに同時に進行する場合もあるだろう。「関係の絶対性」というのは、これらの手順(工程)すべてを相渡り、架橋する概念であり、キャラクター・メイキングという1工程の中に収まっているわけではない。

コンピュータにたとえるなら、「関係の絶対性」はすべてのアプリのベースにあるOSのようなものなのだ。

プロットを制作することの重要性についてはすでに述べた。その重要なプロットを作るために必要なことが2つある。

1つはワールドモデルの設定であり、もう1つがキャラクター・メイキングである。

これから書く長い小説の主人公について考えるのは楽しく、しかし難しい。年齢や性別、趣味、何よりも主人公が世界というものにどんな風に関わっていくのかを考えなければならない。

そんな時、僕らは往々にして間違いを犯す。

まだ見ぬ主人公……(特別公開はここまで、続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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