特別公開:小説と僕らの人生のプロット 3 「桃太郎」の並べ替え 山川健一
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『プロットとエピソードは正反対のベクトルを持っている──ということをこれまで述べて来た。今回はその応用編です。素材にするのは昔話の「桃太郎」で、実はこれは実践コースの方達への課題にしようかと思ったのだが、プロットの話は重要なのでここで扱うことにした。』
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「私」物語化計画 2019年3月22日
特別公開:小説と僕らの人生のプロット 3 「桃太郎」の並べ替え 山川健一
プロットとエピソードは正反対のベクトルを持っている──ということをこれまで述べて来た。今回はその応用編です。
素材にするのは昔話の「桃太郎」で、実はこれは実践コースの方達への課題にしようかと思ったのだが、プロットの話は重要なのでここで扱うことにした。
僕は大学のゼミで「短冊方式」というものを編み出し、学生たちを指導していたのだが、てっきり僕のオリジナルアイディアとだと思っていたこの方式は、実はとても一般的なものなのだと、先日、編集者の永島賞二氏に教えてもらった。
この「短冊方式」とはどのようなものなのか?
物語を構成する「いつ、どこで、誰が、何をするのか?」と言うものがエピソードで、これを並べていくとストーリーができあがる。
しかし1つのエピソードの中に、いくつかの小さなエピソードがあったり、あるいはいくつかのエピソードが伏線として隠されていたり、物語は複雑な構造を持っている。
これを整理するために僕が考え出したのが「短冊方式」である。
エピソードを時間軸に沿って並べたものがストーリーだが、小説を面白くするためにはエピソードをただ時間経過順に並べていけばいいというものではない。
冒頭に主人公が犯行に及ぶシーンを入れる方が、読者は引き込まれるかもしれない。ドストエフスキーの「罪と罰」はこのパターンだ。
推理小説であっても、最初に犯人を特定してしまうパターンもあり得る。
作者は、試行錯誤を繰り返し、どのエピソードをどこに配置するのが効果的なのか考えなければならない。
エピソードの配置の背後には、実はプロットという明確な設計図がなければいけない。
しかし多くの場合、作家はエピソードから思いつくので、最も重要な設計図が見えてこない場合がある。
これをなんとかしなければ、お話は小説になってくれないのだ。
こうした作業を創作ノートでやるわけだが、いろいろ考えているうちに自分でもよくわからなくなってくる。そこで登場するのが短冊、具体的には文房具店で売っている大きめの付箋、ポストイットである。
思いついたエピソードを付箋にメモする。エピソードになる以前の1シーンについての付箋もある。
《激しく降る雨が海面を叩き、もはや水平線を見ることさえできない》
と言うような、ただのアイディアも書き記す。
これをどんなふうに並べたらいいのか、テーブルの上に順番に並べていくわけだ。普通この作業は作家が1人で頭の中で行うわけだが、付箋を並べていくわけだから、複数の人間で相談しながらやることさえできる。教員の僕が学生を指導するのにも便利な方式なのだ。
エピソードから付箋を使いプロットを抽出する実践を「桃太郎」でやってみよう。この昔話は日本人なら誰でも知っているだろうが、まずいくつかのパートに分けてみる。
1. おじいさんが山に芝刈りに、おばあさんが川に洗濯に行くと川上から大きな桃が流れてきた。家に持ち帰った桃を包丁で切ろうとすると、中から元気な赤ん坊が誕生した。子供に恵まれなかった老夫婦は大喜び。桃太郎と言う名前をつけた。
2. 桃太郎はすくすく育ち、体格も頑丈で力持ち、しかしとても優しい男の子に成長した。
3. 時折村を襲う鬼を退治にしに行くことを決意した桃太郎は、おじいさんとおばあさんにもらった吉備団子を持ち、鬼退治に出かける。途中、犬、雉、猿が吉備団子をもらい家来になる。
4. 鬼が島での鬼達との壮絶な戦いに勝利し、命乞いする鬼たちを許し、しかし財宝を持ち帰る。
5. 村に帰り、両親代わりのおじいさんとおばあさんと再会。村人に財宝分け与え、幸福に暮らす。
1から5までを順番に並べると、昔話の「桃太郎」になるわけだが、これをあなたは自分なりにアレンジし、現在小説にリライトしなければならない。
さて、どういう順番に並べますか?
たとえば僕ならこんな風に並べようかな。
3→2→1→4→5
この並び順だとこんな展開になる。
桃太郎は……(特別公開はここまで、続きはオンラインサロンでご覧ください)