エミリー・ブロンテ『嵐が丘』の方法を検証する 1  山川健一

それが未知で不可思議な存在であるという意味で、今なお新しい。それを実現した話法というものを学べば、あなたの現代的な作品も膨らみを増すはずである──

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「私」物語化計画 2022年2月18日

特別公開:エミリー・ブロンテ『嵐が丘』の方法を検証する 1  山川健一

今週から『嵐が丘』をテキストに、この小説の話法について講義していきたい。

この小説は芸工大の文芸学科で夏季休暇の課題図書にしていた。『「私」物語化計画』には何人かの卒業生がいるが、懐かしく読んだことと思う。

物語化計画の30代の女性会員の方は、

「こんなに見事にキャラクター・メイキングしているのに登場人物の誰も好きになれないって、珍しい小説ですよね」と言っていた。

とても鋭い感想だと思う。

好きになれないどころか、陰湿な復讐に生涯を費やすヒースクリフは筋金入りの悪党だし、他の上流階級の男と結婚することでヒースクリフを捨てたヒロインのキャサリンも、嫌な女である。

ところが、長編小説であるという枠組みを超えて、『嵐が丘』はリアルな記憶のように読者の胸に残るのである。

『嵐が丘』は奇怪な小説である。

そもそも物語化計画で学んできたナラトロジーの構造からも逸脱している。物語の前提となる「欠落」が冒頭で示されることさえない。物語の中盤以降、徐々に「欠落」が明らかになっていく。さらに全知の語り手、ナレーターが存在しない。したがって何が本当のことなのか、読者である我々にはわからない。ここが重要なポイントだ。

寒風吹きすさぶヨークシャーにそびえる〈嵐が丘〉の屋敷。かつてその主人に拾われたヒースクリフは、屋敷の娘キャサリンに恋心を抱きながら、若主人の虐待を耐え忍んできた。そんな彼はある日キャサリンの結婚話を聞く。相手は新興の上流階級(ジェントルメン)の男である。

絶望に打ちひしがれてヒースクリフは屋敷を去るが、やがて莫大な富と共に戻って来て、着実に復讐を果たしていく──。

この壮大な物語はアーンショウ家とリントン家、2つの家において三代に渡って繰り広げられ、メインのストーリーラインではヒースクリフとキャサリンとの間の愛憎、悲恋、復讐が描かれていくのだが、前述したように全知のナレーターは存在しない。「昔々あるところにお爺さんとお婆さんがまいました」と語るナレーターはこの世界のことを全て知っているわけだが、そういう語り手が存在しないのだ。

物語の語り手は複数の登場人物や書簡なのだが、それが次々に変わる。さらに又聞きの形で描写されたり、時系列が入り乱れて後日談や回想が入る。

発表当時は「物語史上最悪の構成」とまで言われた。もちろんこれはエミリー・ブロンテの方法論なのだが、当時はそれが理解されなかった──続きはオンラインサロンでご覧ください)

 

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