ジェノバの夜を小説化しよう(ジェノバからハッピーエンドへ) 山川健一
作品を一つ書くごとにあなたは浮上する。あの #暗闇を脱する ことが可能になる──
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「私」物語化計画 2022年9月2日
特別公開:ジェノバの夜を小説化しよう(ジェノバからハッピーエンドへ) 山川健一
【ジェノバの夜の遡行性】
今週はジェノバの夜について書く。
新規会員の方から「ジェノバの夜」のレポートが送られてきて、その講評を書いた。どれも深く、悲しみを内包しており、複雑である。皆さんも、入会された時にそれぞれ書いてくれたはずである。
これを時に見つめ直すことが大切だ。
先日行ったナイトカフェで、ある方が「狂気の種子の話がストンと腑に落ちて、それで短編を仕上げることができました」と言っていた。
《狂気の種子とレモン効果──梶井基次郎「檸檬」をテキストに》で書いたことだ。
リマインドのために、その部分を引用しておく。
【猛り狂った魂を檸檬ような物体で象徴化すること】
あなたのコアには狂気の種子がある。
「えーっ」などと誤魔化さないように。
あなたはそのことに、とっくに気がついているはずだ。狂ったこの世界のパーツとして存在しているあなたの胸の奥にも、狂気の種子は眠っているはずだ。
その狂気とは精神医学的な意味合いのものではなく、いわば文学的なカテゴリーに存在する精神の状態のことだ。
梶井基次郎は、それを「檸檬」だと言った。
『「私」物語化計画』講義:「狂気の種子とレモン効果──梶井基次郎「檸檬」をテキストに」より
思うに、僕らに訪れるジェノバの夜という現象の中心に、〈狂気の種子〉がある。そのただ中にいる時にはその本当の意味に気がつかない。それほど鋭利でシビアな体験で、だから僕らはそれを一種の狂気なのだと遠ざける。
やがて時間が経ち、少しずつジェノバの夜の意味がわかってくる。多くの場合、言葉を書き記すことで理解が深まっていく。
小説を書くのでもいいし、日記でも批評でもいい。ポール・ヴァレリーは『テスト氏』を書いたわけだ。
この時に、自らの内側の〈狂気の種子〉を詩の言葉で書ければ最高だ。「あいつを殺したかった」とか「自殺したかった」というようなレアな言葉ではダメなのである。
梶井基次郎の「檸檬」、太宰治の「トカトントン」、ローリング・ストーンズの“Paint It Black”というフレーズ、ポール・ヴァレリーの「テスト氏」のような詩の言葉をつかみとってこなければならない。
詩の言葉こそが、ジェノバの夜の意味を豊かに表現してくれるからだ。
しかも、そいつは一度書けばいいというものではない。繰り返し何度でも書く。書く度に少しずつ意味が変わってくるはずだ。
なぜか?
ジェノバの夜には、遡行性という性格があるからだ。
わかりやすく説明しよう。
トラウマというものがある。トラウマにも遡行性がある。
例えば──続きはオンラインサロンでご覧ください)