特別公開:小説の終わらせ方 06 ドンデン返し──場所に依拠、キャラクターに依拠、生死(実在か否か)に依拠 山川健一
作品を数行で一気に逆転照射することで終わらせる──
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「私」物語化計画 2021年5月21日
特別公開:小説の終わらせ方 06 ドンデン返し──場所に依拠、キャラクターに依拠、生死(実在か否か)に依拠 山川健一
皆さん、お元気ですか。個人的なことだが、65歳以上である僕は、COVID-19のワクチンの接種予約をインターネットで行い、今月中に1回目のワクチン接種を受けることができることになった。ファイザーのワクチンだ。
政府が行っているスケジュールで国民へのワクチン接種が進むとは到底思えないが、こいつはウイルスとの戦いにおける防波堤なので、何とか速やかに進行してほしいものだ。
僕は東北芸術工科大学の教員を引退してからも、早稲田大学の社会人講座で毎年講座を持ってきた。昨年は大学側と相談し中止にしたのだが、今年は何とかやって欲しいとの連絡を受け、10月以降、対面の講義を行う方向で大学側と調整している。
その理由は、その頃にはワクチンがある程度行き渡り、状況が好転しているのではないかという見通しが立ってきたからだ。
『「私」物語化計画』でも、スクーリングをずっと中止にしてきたが、コロナの様子を見て年内に1度は開催したいものである。これについては、皆さんのご意見もお聞かせください。
ただ、山口香JOC理事が五輪開催には「意義がない」としながらも、「もう時機を逸した。やめることすらできない状況に追い込まれている」と述べたことからもわかるように、信じがたいことにオリンピックが本当に開催されるかもしれない。
そうなると変異株の爆発に突入するかもしれず、様子を見ながら判断しなければならないと思う。
【ドンデン返しは結末だけに存在するのではない】
さて、今週は結末部分を書く方法についての最終回である。小説の結末を書く方法、6つのパターンのおさらいだ。
- 概念を映像化して終わらせる。
- 作品全体の思想をさらに展開して終わらせる。
- 喪失感の表現で終わらせる。
- 希望の表現/世界と一体化して終わらせる。
- 世界から零れ落ちることで終わらせる。
- 作品を数行で一気に逆転照射することで終わらせる(つまりドンデン返し)。
今週は【作品を数行で一気に逆転照射することで終わらせる(つまりドンデン返し)】である。
カクヨムコンテストでも「どんでん返し部門」というのが新設され、ドンデン返しをテーマにしたアンソロジーも見かけた。
ところで、ドンデン返しと言えばぴこ蔵師匠である。
ぴこ蔵師匠の言うドンデン返しは、恐怖のパターンを分析することで考案されたものだ。
スティーヴン・キングが『死の舞踏』の中で、物語に繰り返し現れる根源的な恐怖のタイプを三種類の怪物に象徴させているという話は前に紹介したが覚えてますか? ぴこ蔵師匠はそれを分かりやすく解説し、具体例に落とし込んでいるわけだ。
キングは恐怖を象徴するモンスターを挙げている。
イニシエーションにおける「敵」とは恐怖のことであり、スティーヴン・キングは自分が書こうとす
る小説の「敵」「恐怖」がどれに分類されるのかを明確に意識することが大切だと言っている。三種類の怪物とはドラキュラ、ジキル博士とハイド氏、そしてフランケンシュタインである。
- ドラキュラ=主人公の外部からやって来た存在
- ジキル博士とハイド氏=主人公の内部に存在する制御不可能な存在
- フランケンシュタイン=主人公のかつての悪行の因果が生み出した存在
ドラキュラ型の恐怖だと思ったらフランケンシュタイン型だった──というような構造を作りドンデン返しを実現するわけだ。自分とは関係のない外部から敵がやってくると思っていたら、実はかくかくしかじかの因果があった、というようなストーリーである。
話が飛ぶが、ある女性会員の方にホラー小説を書くように勧めたところ、ホラーを書こうとすると過去のトラウマがよみがえってしんどい、というメールが届いた。ファンタジーではダメか、と。
実は、ホラー小説が大事なのではない。大事なのはドンデン返しを実現する構造である。そして、「恐怖」を媒介にしないでもドンデン返しを実現することが可能なのである、と僕は思っている。
それで、「ではホラーはやめてファンタジーを書こう」という返信を送った。
恐怖を媒介にしないドンデン返しの、重要なポイントを書いておく。
まず最初に、結末に関する連載でこれを書くのもどうかと思わなくはないが「ドンデン返しは結末にだけ存在するのではない」ということだ。
小説は、小さなブロックの集合で中ぐらいのブロックが出来上がり、中ぐらいのブロックの集合で長編小説が成立する。
そのブロックのひとつひとつにドンデン返しを仕込むことが可能なのである。
なぜドンデン返しが必要かと言うと、これはひとえに読者を飽きさせないためである。作者が告白するというスタイルの小説はいくつかあるが、これを退屈させないで読ませるためにはそれぞれのブロックで予想外の展開が必要なのである。それをわかりやすく、ここではドンデン返しと呼んでおく。
恐怖を媒介にしないでも可能なドンデン返しのパターンを考えてみよう。
大きく分けると3つある。
- 場所に依拠
- キャラクターに依拠
- 生死(実在)に依拠
【場所に依拠/『約束のネバーランド』(白井カイウ原作、出水ぽすか作画)】
場所に依拠するケースは、「大冒険を繰り広げていた孫悟空が実はお釈迦様の手のひらの上で動いていただけだった」というパターンだ。
これを実現するのは───続きはオンラインサロンでご覧ください)