特別公開:小説を書くための5つのステップ 山川健一
たいへんな日常生活の中で、何故皆さんは小説を書いたり読んだりしたいと願うのだろうか? 答えはごくシンプルだ──
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「私」物語化計画 2020年12月11日
特別公開:小説を書くための5つのステップ 山川健一
今年も12月になり、この原稿を配信する金曜日もあと3回しかない。早いものだ。師走というのは「師」が走るほど忙しいということだろうが、今年の「師」は看護師の方々の「師」ではないかという気がする。
COVID-19の脅威が世界を覆っているわけだが、皆さん自身や、皆さんの周囲の方々は大丈夫でしょうか。幸い、僕の周りは「会社の入っているビルの別のフロアで感染の報告があった」というレベルで、陽性になった友人知人はまだいない。しかし、いつどこで感染するか分からないので、僕は可能な限り引き篭もっている。
1年を締めるにあたり、2回は「2020年を振り返って」というテーマのエッセイを書きたいので、実質的に講義原稿は今年度はこれが最後ということになる。
長くなりすぎるといけないので、ポイントだけを整理して述べる。
【火事が起きたらとにかく逃げる】
『「私」物語化計画』には、ちゃんと数えたわけではないのだが、女性の方が多いのではないだろうか。コロナ禍の中、これまでの日本社会の歪みが露呈する形で、女性の方々に皺寄せが行っていると様々なメディアが伝えている。
会員の皆さんからのメッセージを読むと、それぞれが、皆たいへんだ。コロナの影響ばかりではなく、いろんなことで、人生はたいへんだ。年齢層ごとに解決しなければならない問題がある。ま、これは男の僕らも同じことだが。
そんなにたいへんな日常生活の中で、何故皆さんは小説を書いたり読んだりしたいと願うのだろうか?
答えはごくシンプルだ。自分自身と「世界」を癒したいからだ。愛する人達と自分自身を救助したいのだ。
抱腹絶倒のユーモア小説でも、ホラー小説でも、それは全く同じことだ。
物語には人々を癒す不思議な力がある。
面白い物語ほどその力は強い。
前回の《キャラクターメイキングには「思想」が必要である》は難解というかわかりにくかったようで、コメントも1つもつかなかったので僕は少し落ち込み、反省した。それで、敗者復活戦というか、同じ事柄を別の角度から書くことにした。
本当に大変な時、仕事がなくなり貯金も底をつきそうで、精神的な悩みもあり──そんな時には首を縮めて嵐が去るのを待っていればいい。ずっと続く嵐などない。必ず青空は戻って来る。
仏陀が言っているが、火事が起きた家にいる時に、「なぜ火事になったのだろうか」とか「火の本質とは何か」なんてことを考えてもしょうがない。大切なのは火事から逃げて生命を守ることだ。
本当に大変な状況を生きている時、小説を書こうなんて思わないほうがいい。言語による表現は、自分が体験したことを対象化しなければならない。さらにそれを表現できる枠組みを考えなければならない。そんな手間暇かかることは、火事が起きている家の中では無理なのだ。とにかく逃げる。
そして、青空が戻って来るのを待つ。
生き延びることが出来れば、黒焦げになった家の残骸を見ながら、あの火事は大変だったが、火元は何だったのだろう──と考えることが可能になる。
火事がおさまってからのステップはこんな具合である。
【小説を書くための5つのステップ】
Step 1
考えたことを「お母さん、学校の校庭にトカゲがいたんだよ」と報告する小学生のように、書いてみる。ストーリー──(略)
Step 2
次に、10枚ぐらいでストーリーを書く。単なる「お話」にしないために、描写すること。ここで必要になるのが──(略)
Step 3
20枚から30枚の短編小説を書く。
この段階で初めて「構成」に意図的になる必要がある。つまり、簡単なプロットが必要になる──(略)
Step 4
100枚の小説を書けるようになる。
これには、僕がこの講義テキストで紹介した全ての文学的な哲学とスキルが必要になる。物語の構造──(略)
Step 5
300枚以上の長さの小説を書くこと。大変なようだが、なに、これは大したことはありません。100枚の小説が書ければ同じような方法で300枚でも500枚でも1000枚でも書ける。
【プレミスを起こした時の「動詞」が思想である】
前回、思想という言葉が混乱を招いたようなので、補足しておきます。小説における「思想」とは、行動で表現しなければならない。まず、これが物語論の基本です。
これを実現すると短編は長編になるのだが、手っ取り早いのはプレミスを作ることだ。
プレミスについては前にちょっと触れたが、ストーリーを1文にまとめたのがプレミスだ。
ストーリーとは「出来事」であり、だから1つの文で表現できるはずだ。1つの文というのは、動詞を1つしか使わないという意味だ。
なぜプレミスが必要かと言うと───続きはオンラインサロンでご覧ください)