特別公開:キャラクター・メイキングの段階 2 人間が人に似せて神を創造したのである 山川健一
「神のデザイン」が有効なのは、作品のスケールを大きくするからだ。これに尽きる──
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「私」物語化計画 2021年6月4日
特別公開:キャラクター・メイキングの段階 2 人間が人に似せて神を創造したのである 山川健一
【僕のiPhoneにはオジマンディアスやダビデがいる】
毎週の講義が難解だという声を、複数の方々からいただいた。反省。もう少しわかりやすく書くように努力します。というわけで今週は、身辺雑記ふうに始めよう。
今朝方のことだが、毎日やっている『Fate/Grand Order』というスマホのゲームでガチャをやるための「聖晶石」が80個たまったので、これを全部注ぎ込んでガチャを回した。
3個で1回まわせる。ボーナスもつくので、30回ほど回して──全部外れだった。
くそっ、なんだよ、ふざけるなよ──と絶望の底に落ち、一度ふて寝して、さっき起きてようやく回復して来たところである。
ま、夢だけは見させてもらったから良しとして、またコツコツ石をためよう。
このゲームのどこが面白いかというと、神話から未来に至るまでを題材にしたスケールの大きさである。神々や古代の英雄がプレイヤーのサーバント(戦士)として活躍する。僕のiPhoneにはオジマンディアスやダビデから、イシュタルやギルガメッシュまでが勢揃いしているのである。
さて、本題。
キャラクター・メイキングの具体的な方法「神のデザイン」が有効なのは、作品のスケールを大きくするからだ。これに尽きる。
モーゼの友達でもあったオジマンディアスが活躍するとなると、これはとんでもないスケールである。オジマンディアスは、僕のiPhoneの中では、ギルガメッシュと親友で、このオジマンディアスやギルガメッシュを仲間にしたくてユーザーは必死に聖晶石をためるわけだ。
そう言えば物語化計画の会員でもある娘が言っていた。
「Fateのユーザーの中で父さんは案外最年長かもね」
うるさい!
67歳の男にも夢は必要ではないか。
夢。
そうそう、「神のデザイン」は夢を大きくする。神々ではなくそこら辺の男達や女達がサーバントではここまで盛り上がらないからね。
本質に切り込む。
神のデザインと僕は言ったが、有名な言葉に「神は神に似せた人をつくられた」というのがある。
旧約聖書『創世記』の冒頭に、天地の創造が描かれている。『口語訳聖書』にこうある。
1日目 神は天と地をつくられた(つまり、宇宙と地球を最初に創造した)。暗闇がある中、神は光をつくり、昼と夜ができられた。
2日目 神は空(天)をつくられた。
3日目 神は大地を作り、海が生まれ、地に植物をはえさせられた。
4日目 神は太陽と月と星をつくられた。
5日目 神は魚と鳥をつくられた。
6日目 神は獣と家畜をつくり、神に似せた人をつくられた。
7日目 神はお休みになった。
旧約聖書『創世記』1章1-8節
『旧約聖書』という古い物語の中では、神に似せて人をつくったということになっている。しかしこれは反対だろう。人間が人に似せて神を創造したのである。そんなわけで、聖書に登場する神々は人間臭い。ギリシャ神話や『古事記』を読んでもそう感じる。
むしろアニミズムにおける神性の方が実体がなく、恐ろしく、神秘を感じさせる。
神々はもの凄いパワーを持ち、中には天空を駆けることが出来る神も存在する。こうなると、ストーリー展開も壮大なものになる。
ゲームやアニメのクリエイター達が今の日本で最も勉強しているのだという話を聞いたことがある。彼らは日々国会図書館に通いつめ、旧約聖書やケルト神話、『マハバーラタ』から『ギルガメッシュ叙事詩』までを調べ尽くしているのだろう。他にも、僕らが知らないありとあらゆる資料を読み込んでいるのである。
小説ではどうだろうか?
いきなりダビデやソロモンが登場したら読者が引くのではないだろうか。
小説には「リアリティを保証する」という鉄則がある。推理小説の探偵が神もしくは超能力者で、最初から犯人が分かっていた──と書くわけにはいかない。
小説において神をデザインするのは、具体的な神を想定し、そのキャラクターの構図を作品に活かすのが最善だろうと思う。
日本神話のスサノオが現代小説に登場し、東京で冒険しまくるというストーリー展開は可能だ。僕ら現代人はちっぽけな知性と良識ってものを持ち、小ぢんまりしており、面白い小説のキャラクターとしてはちょっと役不足だよなというところがある。
キャラクター・メイキングにスサノオやダビデを取り入れることが出来れば強力だろう。
会員の和田哲郎さんが、平井権八が主人公の長編を書いている。権八は神ではなく江戸時代の鳥取藩士で、同僚の本庄助太夫を斬って江戸に出る。
吉原の遊女小紫となじみになり、金にこまって辻斬りをはたらき鈴ケ森で処刑された。享年は25。歌舞伎や浄瑠璃では白井権八の名で知られる。
和田哲郎さんがなぜ自分のことではなく平井権八を描こうとしているのか? それは御本人にしかわからないが、本能的に大きな物語を欲しているからだろうと思う。これが完成すれば、壮大なスケールの物語になるはずである。
【神のデザインによって生み出された有島武郎の『カインの末裔』】
神をベースにキャラクター・メイキングして成功した小説としては、有島武郎の『カインの末裔』をあげなければならない───続きはオンラインサロンでご覧ください)